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東京地方裁判所 昭和31年(行)44号 判決

原告(選定当事者) 小島敏夫

被告 日本電信電話公社総裁人事院

訴訟代理人 人事院代理人 河津圭一 外二名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一各当事者の求める裁判

原告は

被告日本電信電話公社総裁(以下、被告公社総裁という。)に対し

「電気通信省関東電気通信局長が昭和二五年一一月一〇日原告および別紙選定者目録記載の者(以下、原告を含め選定者らという。)に対してした免職処分はこれを取り消す。訴訟費用は同被告の負担とする。」

との判決を

被告人事院に対し

「被告人事院が昭和二七年一〇月六日選定者らに対してした右免職処分を承認する旨の判定および昭和三〇年一〇月二二日右判定に対する選定者らの再審請求を却下する旨の決定はいずれもこれを取り消す。訴訟費用は同被告の負担とする。」との判決を求め、

被告公社総裁は、本案前の答弁として、

「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を

被告人事院は、本案前の答弁として

「被告人事院が昭和二七年一〇月六日選定者らに対してした判定の取消を求める原告の訴を却下する。」

との判決を

被告両名は、本案の答弁として

「主文同旨」

の判決を求めた。

第二原告の請求原因

一  選定者らの任命と免職

(一)  任命

原告小島は昭和二三年七月逓信事務官となり、横浜中央電話局に勤務し、昭和二四年六月一日電気通信省設置法施行により電気通信事務官(以下、電気通信省を電通省、電気通信事務官を電通事務官という。)として横浜電気通信管理所勤務となり、昭和二五年五月末か同年六月初め頃横浜長者町電話局営業課勤務となつたもの。

選定者清水は昭和二一年八月逓信事務官に任命され、横浜電信局勤務となり、前記電通省設置法施行により電通事務官として横浜電報局勤務となつたもの。

選定者村山は昭和二四年五月逓信技官に任命され、横浜電気通信工事局に勤務し、前記電通省設置法施行により電通技官として横浜電気通信管理所勤務となつたもの。

選定者下山は昭和二二年七月逓信事務官に任命され、横浜電信局に勤務し、前記電通省設置法施行により電通事務官として横浜電報局勤務となつたもの

である。

(二)  免職

電通省関東電気通信局長新堀正義は昭和二五年一一月一〇附で選定者らに対し免職の処分をした。

その処分の理由は、処分理由書によると「小島、清水および村山は共産主義者、下山はその同調者でいずれも公務上の秘密を漏洩し、公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだる虞があり、公務員としての適格性を欠くものと認める。よつて国家公務員法第七八条第三号の規定により免職する。」というのである。

二  被告人事院の判定と再審請求却下

(一)  免職処分承認の判定

選定者らは右免職処分を不服とし昭和二五年一一月二九日より同年一二月九日までの間に被告人事院に審査の請求をしたところ、人事院は昭和二七年一〇月六日別紙のとおり右免職処分を承認する旨の判定をし、右判定書写は同月一二日選定者らに送達された。

(二)  再審請求の却下

選定者らは昭和二八年四月六日被告人事院に対し、右判定には、職員の意に反する不利益処分及び懲戒処分に関する審査の手続(人事院規則一三―一、以下審査規則という。)第六二項第四号「事案の審査の際提出されなかつた新たな且つ重大な証拠が発見されたとき」、同項第五号「判定に影響を及ぼすような事実について、判断の遺漏のあつたとき」に該当する再審事由の存することを理由として再審の請求をしたところ、被告人事院は昭和三〇年一〇月二二日右再審請求を却下する旨の決定をし、右決定書写は同月三一日選定者らに送達された。

三  右各処分の違法

(一)  免職、判定の違法

選定者らには免職処分の理由とする公務上の機密を漏洩し、公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだる虞はなく、公務員に必要な適格を欠く事実は存しない。

従つて、前記免職処分は違法であり、これを承認した被告人事院の判定もまた違法であるから取り消さるべきものである。

(二)  再審請求却下決定の違法

被告人事院の再審請求却下の決定は、前記の判定に原告主張のとおりの再審事由が存することを看過した違法があり(その詳細は被告らの主張に対する反駁と共に述べる。)、取り消さるべきものである。

(三)  各処分の取消

選定者らが勤務していた電通省の事業は、その後日本電信電話公社に引き継がれ、同公社法施行法の規定により、同公社総裁は免職処分をした電通省関東電気通信局長の争訟上の地位を受け継ぐべきものとされた。

よつて、被告公社総裁に対し選定者らに対する免職処分の取消、被告人事院に対しては選定者らに対する免職を承認する判定と前記再審請求却下決定の各取消を求める。

第三被告らの本案前の抗弁

一  出訴期間の徒過

選定者らに対する免職処分、被告人事院の判定の取消を求める訴は出訴期間を徒過したのち提起されたものであるから却下さるべきものである。

選定者らに対する免職処分およびこれを承認する人事院の判定に対する取消訴訟の出訴期間は、右判定書写が選定者らに送達された昭和二七年一〇月一二日から六ケ月である。

しかるに選定者らは右期間を経過した昭和三一年四月二七日本訴を提起したものであるから、前掲各訴は、行政事件訴訟特例法第五条に違反し不適法である。

二  再審請求と訴願

もつとも、選定者らは右判定に対し審査規則第六二項に基き再審の請求をしたのであるが、右再審の請求は人事院の判定に不服なときに常にできるわけではなく、同項に列挙された再審事由のある場合だけに限り特に認められた救済方法であつて、行政事件訴訟特例法にいう訴願に該当しないものと解すべきであるから、前記二処分の取消を求める訴の出訴期間は再審の請求に関係なく右判定のあつたことを知つた日から進行するものである。

仮に再審の請求が同特例法にいう訴願に該当するとしても、本件では再審事由のない不適法な請求として却下されたのであるから、前記人事院の判定に対しては同特例法第五条第四項の訴願裁決を経たものということができず、前掲各訴は結局不適法である。

三  よつて、被告公社総裁に対する免職処分取消の訴、被告人事院に対する判定の取消の訴はいずれも不適法として却下さるべきものである。

第四被告公社総裁の本案の答弁

一  原告の請求原因事実の認否

原告の請求原因第一項の事実中原告小島が横浜長者町電話局営業課に勤務するに至つたのは昭和二五年五月一日からであつたとの点を除き、その余の事実は認める。

同第二項の事実と選定者らが勤務していた電通省の事業が日本電信電話公社に引き継がれ、同省関東電気通信局長の争訟に関する地位を被告公社総裁が受け継いだことは認める。

二  占領軍最高司令官の指令に基く選定者らの免職

(一)  占領軍最高司令官による共産主義者等を排除すべき規範の設定

占領軍最高司令官マツカーサー元帥は昭和二五年五月三日日本共産党が国外勢力の支配の下に国内において破壊的行動をとりつつあることを指摘し警告する声明を発し、翌六月六日吉田内閣総理大臣宛の書簡をもつて、日本共産党の破壊的性格および行動を指摘すると共に、日本政府に対し袴田里見外二三名の日本共産党中央委員を公職から追放し、右二四名を一九四六年一月四日附指令ならびに右指令を施行するための命令に基く禁止、制限等に服させるために必要な行政上の措置をとるよう指令し、昭和二五年六月七日同じく吉田内閣総理大臣宛の書簡をもつて日本共産党の機関紙「アカハタ」が法令に基く権威に対する反抗を挑発し、社会不安と大衆の暴力行為を引起そうと企ていることを指摘し、「アカハタ」の内容に関して責任を分担している相川春喜外一二名に対し日本共産党中央委員に対する前記の措置と同様の措置をとるよう日本政府に指令し、更に同月二六日、同年七月一八日いずれも吉田内閣総理大臣宛書簡をもつて「アカハタ」の一時停刊および無期限停刊の措置を指令した。

右声明および書簡は一体となつて日本共産党を中心とする国内共産主義勢力が国外における侵略主義的勢力に屈伏し、我が国における民主々義的復興を妨げ、国内に破壊と混乱をもたらそうとしていることを顕著な事実として指摘し、かつ、日本国を民主々義原理によつて再建しようとする目的上これらの勢力を国家および社会の重要部分から排除しようとする占領政策を明確に宣言したものである。

従つて、右により日本国政府および国民に対し、国家および社会の重要部門より共産主義者およびその同調者を排除すべき措置をとるべき法規範が設定されたものである。

(二)  右指令に基く閣議決定

かねて政府は国家公務員にして日本共産党に入党し、又はその同調者となり、過激な政治活動を行い、公務員としての政治的中立に反し、公務の正常な運営を阻害し又は阻害する虞のあるものの存在に着目し、国家公務員が国民全体の奉仕者として高度の公共的性格を有している点に鑑み、その対策を考慮していたが、前記声明および指令に基き、同年九月五日閣議において「民主的政府の機構を破壊から防衛する目的をもつて危険分子を国家機関その他の公の機関から排除するために共産主義者又はその同調者である公務員で公務上の機密を漏洩し、公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだり又はみだる虞があると認められる者を国家公務員法その他当該法規の規定に基き公職に必要な適格を欠くものとしてその地位から排除する」方針を決定し、これに則り各政府機関からかかる共産主義者らを排除する措置をとつたものである。

(三)  電通省における右決定の実施

電通省においても前記閣議決定に基き検討した結果、横浜電気通信管理所内においては選定者ら四名と高木光雄の計五名を右に該当するものと認定し、同人らの任命権者である電通省関東電気通信局長新堀正義において昭和二五年一一月一〇日国家公務員法第七八条第三号の規定により選定者らを免職したものである。

以上のとおり、選定者らの免職は根本的には占領軍最高司令官の設定した前記規範に基くものであるから違法と称せられるかどはない。

三  選定者らの具体的免職理由

小島、清水、村山はかねて日本共産党電通神奈川細胞(昭和二一年四月結成、後に日本共産党横浜電気通信管理所細胞と改称)に所属し、また下山は小島らに同調していずれも積極的に日本共産党の政治活動を行つたものである。

選定者らは昭和二四年一〇月結成された横浜電気通信管理所労働組合(以下単に組合ともいう。)に所属し、後記のとおり右組合の幹部ないし実力者として重要な地位を占め、右組合を主導していた関係から、組合運動に名をかりて共産主義の宣伝に努め、日本共産党の政治活動に従うと共に国家公務員法等によつて禁ぜられた政治的行動をし、あわせて職場における管理者の権威失墜を企てる等公務の秩序をみだす行為をした。

以下その具体的活動を例示すれば次のとおりである。

(一)  小島敏夫関係

同人は、

(1) 少くとも昭和二五年七月以来、国家公務員法の禁止を無視して、前記細胞の主幹者であつた。

(2) 昭和二五年五月末頃横浜市中区日本大通り所在横浜郵便局前道路上において国家公務員法の禁止を無視して日本共産党所属全国区参議院議員候補者山口寛治の選挙応援を行つた。

(3) 昭和二四年春頃から昭和二五年五月頃までの間国家公務員法の禁止を無視して横浜電気通信管理所内において日本共産党機関紙「アカハタ」を配布した。

(4) 昭和二四年一〇月横浜電気通信管理所労働組合結成と同時にその執行委員となり、昭和二五年四月書記長、同年一〇月副執行委員長となつて、右組合内における重要な地位を占め、かたわら昭和二五年四月全国電気通信協議会結成と共にその常任委員となり、他の選定者らと共に後記(五)のとおり組合活動に名をかりて共産主義の宣伝等日本共産党の政治活動を行つた。

(二)  清水豊関係

同人は

(1) 昭和二五年五月末頃国家公務員法の禁止を無視して横浜市中区日本大通り横浜電報局内組合掲示板に日本共産党所属全国区参議院議員候補者山口寛治、同神奈川地方区同候補者岡崎一夫両名を推薦するビラを管理者に無断で掲示した。

(2) 同年六月三日横浜市中区日本大通り神奈川県庁附近道路上において国家公務員法による禁止を無視して前記山口寛治、岡崎一夫の選挙応援を行つた。

(3) 昭和二四年六月頃から昭和二五年四月頃までの間国家公務員法の禁止を無視して前記横浜電報局内において勤務時間中日本共産党機関紙「アカハタ」を局員に配布し、かつ、その購読料を徴収した。

(4) 昭和二五年五月六日頃前記横浜電報局内三階通信室前廊下(北側)の壁に管理者の禁止を無視して、当時日本共産党の米国占領政策を攻撃する一材料であつた広島市の原子爆弾被害写真数葉を掲示した。

(5) 昭和二四年一〇月から昭和二五年一〇月までの間、横浜電気通信管理所労働組合の執行委員、教育宣伝部長、同年一〇月以降電報班幹事として、他の選定者らと共に後記(五)のとおり組合活動に名をかりて共産主義の宣伝等日本共産党の政治活動を行つた。

(二)  村山邁関係

同人は

(1) 昭和二五年六月三日前記神奈川県庁附近道路上において国家公務員法の禁止を無視して前記候補者山口寛治、岡崎一夫の選挙応援を行つた。

(2) 昭和二四年初頭より同年八月頃までの間国家公務員法による禁止を無視して横浜電気通信管理所内(電通省設置法施行前は横浜電気通信工事局内)において勤務時間中相当数の「アカハタ」を配布した。

(3) 昭和二五年一〇月から横浜電気通信管理所労働組合の会計監査となつたが、右組合結成当時から他の選定者らと密接な連絡の下に後記(五)のとおり組合活動に名をかりて、共産主義の宣伝等日本共産党の政治活動を行つた。

(四)  下山重雄関係

同人は

(1) 昭和二五年五月末頃国家公務員法による禁止を無視して前記横浜電報局内組合掲示板に前記候補者山口寛治、同岡崎一夫両名を推薦するビラを管理者に無断で掲示した。

(2) 昭和二四年六月頃から昭和二五年四月頃までの間国家公務員法による禁止を無視し前記横浜電報局内において勤務時間中日本共産党機関紙「アカハタ」を局員に配布し、かつ、購読料を徴収した。

(3) 昭和二五年三月一三日定時退庁闘争に関する全逓信従業員組合の本部指令を逸脱して超過勤務を指令された職員をしてこれを拒否させた。

(4) 昭和二四年一〇月横浜電気通信管理所労働組合結成当時から、ひきつづきその執行委員として他の選定者らと共に組合活動に名をかりて後記(五)のとおり共産主義の宣伝等日本共産党の政治活動を行つた。

(五)  選定者らの共同による組合運動に名をかる共産主義の宣伝、管理者の権威失墜の企図

選定者らは

(1) 平和投票運動

昭和二五年五月一〇日附横浜電気通信管理所労働組合組合長高木光雄の名による指示第一号と題する文書と同月一九日附教育宣伝部長清水豊の名による横管教宣要請第一号平和投票についてと題する文書により、同組合の委員および班長に対し当時日本共産党が重要な政策として党の組織を通じて支持していた平和投票運動に組合員を参加せしむべきことを指示し、

(2) 前進座観劇の勧誘

昭和二五年六月二九日附組合ニユース六号(発行責任者清水豊)をもつて当時日本共産党の指導と援助を受け同党の文化政策の一部を担当していた劇団前進座の同年七月九日横浜公演を観劇すべきことを組合員に勧誘し

(3) 吉田内閣の政策に対する反対

前記五月一〇日附指示第一号に、当時の吉田内閣に反対し、その政策を攻撃する「我々は既に単独講和を進めた吉田内閣の軍事基地を求めんとする政策に反対し」、あるいは「一貫して吉田民自党内閣がいかに自主性のない政策を強行し、その結果我々を圧迫して来たかは今更論ずるまでもない程である。」等の政治的目的を有する記事を掲載して発行し、国家公務員法によつて禁止されている政治的行為(人事院規則一四―七、第六項第一三号)をなし

(4) 参議院議員選挙における候補者推薦

同年五月三〇日附組合ニユース四号に、右組合の執行部が同年六月行われる参議院議員選挙について、全国区および神奈川県地方区候補者としていずれも日本共産党に所属する山口寛治、岡崎一夫の両名を推薦することを決定したとの記事を掲載して発行し、もつて国家公務員法によつて禁止された政治的行為をし

(5) 地方税政策に対する反対

昭和二五年九月九日附組合教育宣伝部の機関紙教宣時報二号に、「払えぬ地方税に反撃」との見出しをつけて、当時の政府の地方税対策を主とする主税政策を攻撃し、これに反対することを煽動する記事を掲載して発行し、国家公務員法によつて禁止された政治的行為をし

(6) 管理者に対する誹謗等

前記五月一〇日附指示第一号に「最近故意に組合の会議の成立を妨害したり、正当に配分さるべき増対費、超勤手当等を一人取したり、更に悪事の数々を犯している管理者を見受けるので執行部は職場の民主化を図るため、次の範囲で信任投票を行うから各班は準備を強化して頂きたい。」との記事を、更に同年六月二六日附組合ニユース六号には「横浜電報局業務長が従業員の労働条件など全然無知で上司のロボツトに過ぎぬことを自らバクロした。」との記事を掲載し、いずれも露骨な表現をもつて管理者を誹謗しその権威の失墜を企てて、公務の秩序をみだし

(7) 全電協に関する記事の掲載

前記組合ニユース四号、同六号等に全国電気通信協議会(略称、全電協)の性格、組織および活動等の記事を掲載する等、組合運動の正常な範囲を逸脱して、後記のとおり当時日本共産党の影響下にあつた全電協その組織の強化およびの宣伝等の活動を行つた。

ものである。

なお(7)の全電協とは次の経緯により結成されたものである。すなわち全逓信労働組合が日本共産党の指導下にある同組合幹部によりその運動方針が左翼急進的方向をとつたことにより、組合大衆の支持を失い昭和二四年九月分裂し、いわゆる再建同盟派は同年一〇月全逓信従業員組合として組織を再編し、一方いわゆる全逓労組(分裂後は統一派全逓信労働組合と称した。)は実力を失い、名目上の存在となり、また人事院の登録を得られなかつたので、その登録を得るため形式上別個の組織を結成しようと企てて昭和二五年四月全電協を結成したものである。

右結成の経緯から明白なように、全電協は当初から日本共産党の指導下にその宣伝と実際活動を分担していたものである。

(8) 選定者らの責任

右(1)ないし(7)にかかげた文書は前記組合の機関紙又はビラであり、組合長高木光雄又は教育宣伝部長清水豊の名において発行されているが、同人らが単独の責任において発行したものではなく、例えば前記指示第一号前文中に「この観点に立つた執行部は種々論議の結果当面の闘う目標及び運動方針について次のように結論を得たので指示する。」と示されているように、当時右組合を完全に掌握し、主要幹部および実力者であつた選定者らの共同の責任において発行されたものであり、前記(1)ないし(7)の諸事実はいずれも同人らの責に帰すべきものである。

四  選定者らの免職理由の総括

以上を綜合すれば、小島、清水および村山の三名は共産主義者であつて日本共産党に入党し、その政策の実現に努力しようとする意図を有し、下山は共産党員ではないが、その同調者として同党の政策を支持しその実現に協力しようとする意図を有するものであり、そのような意図の下に公務員に課せられた服務上の諸義務に違背して前記各行為をしたものと認められる。

そして日本共産党の性格およびその行動が民主々義秩序に対して破壊的危険性を有することを明らかにしている前記占領軍最高司令官の声明、書簡等の趣旨に照して判断すれば、選定者らが今後も前記行為と性質を同じくする行為を反覆実行し、公務の秩序をみだす危険性を有しているものであることが明らかであるから、同人らについて国家公務員法第七八条第三号を適用して免職処分に付したことは当然であるといわなければならない。

また選定者らの免職は占領軍最高司令官の設定した前記規範に応ずる措置というべきである。

以上のとおり選定者らの免職処分には違法の点はない。

なお、本件免職に関して、横浜電気通信管理所労働組合は強硬な反対闘争の実行を策し、昭和二五年一一月一〇日、一一日にわたる多数組合員の職場離脱等が強行され、業務の運営上著しい支障を来した。このためその首謀者として戸室昌子外四名のものが国家公務員法第八二条により懲戒免職処分に付されるに至つたた。

右の事態は前記五名の外、選定者らが主導的地位に立ち、かねて日本共産党が標榜していたレツドパージ反対闘争の一環として企画、指導した結果生じたものである。

右の事実およびその後において選定者らが日本共産党の政策を宣伝し、横浜電気通信管理所職員に対する宣伝をしばしば行つた事実、右に関連して村山、下山の両名が昭和二六年一月二〇日昭和二五年政令第三二五号違反の疑により加賀町警察署に逮捕された事実は、選定者らを国家公務員としての適格性を欠く者と認定したことが誤りでなかつたことを裏書するものである。

第五被告人事院の本案の答弁

一  請求原因事実に対する認否

選定者らが昭和二五年一一月一〇日当時その主張の電通事務官又は電通技官であつたところ選定者らの任命権者である電通省関東電気通信局長新堀正義により原告の要約した理由により免職の処分を受けたことおよび請求原因第二項の事実は認める。

二  被告人事院の判定について

選定者らに対する前記免職処分は、別紙判定書理由記載のとおりの事情により正当として承認さるべきものである。

従つて被告人事院の判定には何らの違法はない。

三  被告人事院の再審請求却下の決定について

被告人事院の前記判定について、原告主張のような人事院規則に定める再審事由の存することはすべて争う。

第六原告の被告らの本案前の抗弁に対する主張

一  再審請求と訴願

国家公務員法第九二条第三項は、審査請求についての判定は人事院規則の定めるところによつて審査される旨規定し、右規定に基いて審査規則が制定されたものであり、右審査規則によれば、人事院のした判定に対しては同規則第六二項所定の場合には再審の請求をすることを認めている。

再審といつても、審査規則第六六項には職権による再審をも認めているし、また同第六二項に定める再審事由も民刑事訴訟法に定める再審事由と比較すると著しくその要件を緩和しているから、同規則にいう再審を民刑事訴訟法にいう再審と同様に解することはできず、一般の行政上の不服申立方法の一に外ならない。

従つて、右再審の手続は、その前の審査請求の手続と共に国家公務員法第九〇条にいう審査請求の範囲内に属するものというべきである。

そうとすれば、審査規則第六三項所定の期間内に適式の再審請求書を提出し、その実体について審査が行われた以上、たとい人事院が右請求につき却下の決定をしたとしても、右決定そのものは国家公務員法第九二条にいう判定に該当するもの

というべきである。

そして行政事件訴訟特例法第二条にいう訴願とは、その名称のいかんにかかわらず、広く一切の行政上の救済方法を総称するものであるから、右再審請求も同法にいう訴願に該当する。

仮に右の再審請求が前記の意味における訴願に該当しないとすれば、国家公務員は、自己の意に反する不利益処分は懲戒処分について裁判所以外に救済申立をなし得る機会は一度となり、労働組合法の適用を受ける労働者が地方、中央各労働委員会の二段階の救済を受けられることと対比し、国家公務員の保護について公平を欠くこととなろう。

二  出訴期間の遵守

以上のとおり、審査規則にいう再審の請求は、行政事件訴訟特例法第二条にいう訴願に該当し、従つて同法第五条第四項により選定者らに対する免職処分および判定に対する出訴期間は、選定者らが再審請求却下決定があつたことを知つた日である昭和三〇年一〇月三一日から進行し、その日から六ケ月内に提起された本訴は適法である。

第七原告の被告公社総裁の選定者らの免職理由の主張に対する訴訟法上の抗弁および実体上の反駁

一  訴訟法上の抗弁

被告公社総裁の答弁中選定者らの免職理由に関する主張(第四の二、三、四)はすべて民事訴訟法第二五五条により準備手続調書又はこれに代るべき準備書面に記載しなかつた事項であるから、口頭弁論において主張することのできないものである。

被告公社総裁は、本訴の準備手続において昭和三一年五月二三日附答弁書を陳述したのみで、他に何らの主張もせず、また証拠の申出も一切しないで右準備手続の終結を見た。

これは全く被告公社総裁指定代理人の懈怠によるものである。しかも被告公社総裁が新たに主張するに至つた免職理由は、公社側が人事院の公平委員会の審理(以下審理という。)の段階において選定者らの免職理由のすべてであると主張した事由より更に数多くの事由を挙げているので、公平審理に四年を費やし、本訴提起後一年二月の後に至つてまた新たな主張、立証をすることは著しく訴訟を遅延させるものであつて、同被告の訴訟追行は故意に訴訟を遅延させるものである。

二  原告の被告公社総裁主張の選定者らの免職理由に対する反駁

(一)  総括

(1) 免職理由の不存在

選定者らが同被告主張のような国家公務員法若しくは人事院規則に違反する行為又は公務の秩序を乱す行為をしたことはなく、選定者らには公務員としての適格性を欠く如き事情は存しない。

(2) 政治的信条による差別待遇

本件免職は、同被告人の主張から明白なように専ら選定者らの政治的信条を理由とする差別待遇である。

従つて、本件免職は、憲法第一四条、第一九条、第二一条、国家公務員法第二七条に違反し、かつ、公の秩序に反するものである。

同被告の援用するマツカーサー元帥の指令、書簡、声明は同被告の主張するような規範を設定したものではなく、また、同指令等の内容も真実に即したものではない。

(3) 国家公務員法第九八条第三項違反

本件免職は選定者らのように活溌な組合活動を行つた組合幹部を狙つてなされたものであるから、組合活動の故による差別待遇として国家公務員法第九八条第三項に違反する。

(4) 以下被告公社総裁の免職理由に関する反駁と共に(2)、(3)の諸点を明らかにする。

(二)  マ司令官の声明等について

同被告主張の占領軍最高司令官の声明、書簡および指令の存したことは認める。

しかしこれらの声明等は同被告のいう如く共産主義者及びその同調者を公職から追放すべきことを日本政府に指令したものではなく、またかかる内容の法規範を設定したものではない。

右声明等の内容は、占領軍司令官の見解であつて、これが真実に合するものとして確認されたものではなく、占領解除後の現在においては、右声明、指令等が憲法違反かどうか更に検討さるべきものである。

また昭和二五年九月五日時の政府が被告公社総裁主張の閣議決定をし、これに基いて共産主義者又はその同調者を排除したことは憲法に違反し、公の秩序に反するものである。

(三)  被告公社総裁主張の選定者らの具体的免職理由について

(1) 政党所属、組合経歴について

小島、村山が被告公社総裁主張の日本共産党細胞に所属していたこと、清水が一時右細胞の細胞員として届け出でられたことは認める。清水は昭和二五年七月同党を脱退している。下山が小島らに同調して同党の政治活動に従つたことは否認する。

選定者らが同被告主張の労働組合に所属したこと、小島が右組合の執行委員となつたこと(ただし、その時期は昭和二五年三月である。)、清水、村山、下山が同被告主張の右組合の役職(清水の電報班幹事を除く。)についたことはいずれも認める。

しかし、清水は昭和二五年七月同組合の教育宣伝部長を辞任しており、また同人が同組合電報班幹事の地位についたことはない。

なお、村山の会計監査の地位は、組合の業務の執行に携わるものではない。

(2) 小島敏夫関係

(イ) 共産党細胞の主幹者について

国家公務員法第一〇二条第三項、人事院規則一四―七第六項第五号にいう「政党その他の政治的団体の役員」とは、その団体の規約、組織によつて定まるものであつて、当時の日本共産党の規約には「主幹」という役員は存しない。従つて小島は同党の役員ではない。

団体等規制令に基く届出に、小島が「主幹者」とされているのは、単に届出責任者という程の意味である。すなわち当時右の届出用紙には、すでに主幹者という欄が印刷されていたので、届出責任者という意味で小島の氏名が記入されたものである。従つて、細胞の主幹者であることは、同党の役員であることを示すものではない。

(ロ) 山口寛治の選挙応援、「アカハタ」の配布について

これらの点に関する被告公社総裁の主張事実は全部否認する。

(3) 清水豊関係

同被告が清水の具体的活動の例示として主張した事実中第四、三、(二)の(1)ないし(4)の事実はすべて否認する。

殊に清水が選挙応援をした日とされた昭和二五年六月三日には、清水は完全に勤務しており、選挙応援をしたことはない。このことは人事院の公平審理において証拠として提出された公社の保管文書である清水の出勤簿、勤務時間報告書によつて明白なところである。

なお、広島市の原爆被害写真は一般に知られたもので、これが日本共産党の宣伝の材料に供されたことはない。

(4) 村山邁関係

被告公社総裁が村山の具体的活動の例示として主張した事実中第四、三、(三)の(1)、(2)の事実はすべて否認する。

殊に村山が選挙応援をした日とされた昭和二五年六月三日の横浜電気通信管理所の勤務時間報告書によれば、村山の属する課では、当日村山と訴外吉井の二人のみ勤務し、他の村山と同じ課員は全部出張中であり、人員不足のため、村山は当日は完全勤務の上七時間超過勤務を行つていることから見て、村山が当日選挙応援に赴いたことのないことは明白である。

(5) 下山重雄関係

被告公社総裁が下山の具体的活動の例示として主張した事実中第四、三、(四)の(1)、(2)、(3)の事実はすべて否認する。

(6) 選定者らの共同による共産主義の宣伝等の主張について

選定者らが横浜電気通信管理所労働組合を主導して組合運動に名をかりて共産主義の宣伝をしたことはない。

右組合は民主的に選出された執行部を持ち、民主的な討議と手続によつて運営されていた労働組合であつた。従つて右組合執行部の中に一部共産党員が選出されていたからといつて、その組合の行つた組合活動を共産党の政治活動と称し得ないことは当然である。

(イ) 平和投票運動について

昭和二五年五月当時は、朝鮮戦争の直前に当り、戦争の危機が切迫していた折である。かかる時期に、平和を守るための行動を起すことは日本国憲法の示すとおり、日本国民の義務であつて、現に平和投票運動は、政党はその立場から、労働組合は組合の立場からこれに参加し、国民の階層、党派を起えた運動であつた。右運動を特定の政党の運動とすることは誤りである。

(ロ) 前進座観劇の勧誘について

労働組合の文化的目的に合致するものを組合員に推薦することは、その当然の任務であつて、前進座観劇を組合員に勧誘することは共産党の政治活動と称さるべきものではない。

(ハ) 吉田内閣の政策に対する反対について

組合の昭和二五年五月一〇日附指示第一号中被告公社総裁の挙げる「我々は既に単独講和を進めた吉田内閣の軍事基地を求めんとする政策に反対し」とある文字は、すぐその後に続く「日本が世界の平和を守るために全国的に行われている平和投票に参加しなければならない。」という平和投票呼びかけのためにいわれている言葉であつて、その趣旨は軍事基地をつくつたりすることは日本国憲法の特色である平和政策に反することであるから、平和を守るため努力しようというにある。かかる記事が人事院規則一四―七「政治的行為」により禁止される筋合ではない。

また「一貫して吉田民自党内閣が………」との文言は、使用者として吉田内閣が選定者らの属する組合を圧迫していることをいつているだけであつて、労働組合がその組合員を雇用している使用者に対し組合としての意見を述べることは正に当然のことであつて、同規則で禁止されているところではない。

(ニ) 参議院議員選挙における候補者の推薦について

国会議員等の選挙に際して労働組合が通常の活動の範囲内でその組合員に対し候補者を推薦することは国家公務員法等に違反するものではない。このことは人事院の公式の説明によつて明らかにされているところである。

(ホ) 地方税政策に対する反対について

被告公社総裁の挙げる「払えぬ地方税に反撃」との見出しをつけた記事は、単に組合員の経済的な地位が過重な地方税でおびやかされていることを述べたものに過ぎないから、これを政治的目的を有する文書ということはできない。このことは、人事院も国又は公の機関が決定した法令、予算等が公務員に対して不利益であるか又は不合理である旨の意見を述べることは政治的行為でないことを明らかにした回答を発していることから見ても明白である。

(ヘ) 管理者に対する誹謗等について

当時の横浜電気通信管理所には不正な管理者があり、組合員から組合に対しこれを批判する投書などもあつて、これをそのままに捨ておくわけにも行かないので、組合として管理者側に厳重注意するよう再三申し入れたが、反省がなかつたため、反省を促す手段として管理者全般の信任投票を実施したものである。このことは管理者の不正を正してその権威と公務の秩序を確立することに寄与したものであつて、管理者の権威を失墜させ、公務の秩序をみだすものではない。

このことは、選定者らが免職された数日後に同所長以下主要な管理者数名が汚職事件で起訴されたこと、電通省の監察官が右汚職事件の調査について被免職者のところに協力を求めに来たことから明らかである。

(ト) 全電協に関する記事の掲載について

全電協がいわゆる全逓労組の別形態であつて、共産党の指導の下にあつたことは否認する。

全電協はその結成大会において採択された運動方針によつて明白なように、右も左もなく一三万電通労働者の共同の目標と要求を闘いとるための全国的組織であつて、組合はこの全電協に加盟していたのであるから、組合ニユースに全電協に関する記事を掲載したことは組合活動として当然のことである。

(7) 公務員としての適格性を欠くとの主張について

以上のように、選定者らには被告公社総裁が主張するような事情がないから、かかる事情を根拠として選定者らが公務員としての適格性を欠くとする同被告の主張の理由のないことは明白である。

同被告の援用するマツカーサー司令官の書簡等に表明された日本共産党に関する見解は朝鮮戦争遂行のための手段であつて、何ら事実に即するものではない。

従つてかかる書簡等の趣旨は、選定者らの公務員としての適格の有無を判断する基準となるべきものではない。

なお、同被告が選定者らが公務員としての適格を欠く証左として主張した昭和二五年一〇月一〇日、一一日にわたる横浜電報局の職場離脱は、選定者らの免職後のことであるばかりでなく右の事態は、選定者らに対する不当、不法な免職に基因して自然発生的におこつたもので、選定者らは右事態の発生に何ら関係がなかつたものである。しかも右職場放棄により業務の運営上著しい支障を来たしたことはない。

更に村山、下山が昭和二六年一月政令第三二五号違反の容疑で逮捕されたことは認めるが、これは同人らの免職後のことであつて、本件免職には何の関係もないことである。しかも、同政令は憲法に違反するものであるから、同人らの行為はあくまで合憲的なもので、国家公務員としての適格性を欠く事情とはならない。

(四)  政治的信条による差別待遇

以上のように選定者らには被告公社総裁が免職理由として主張するような事情は全然なく、結局組合の執行部のうち共産党員又はその同調者と考えたものだけを選んで、その者だけを免職したのであるから、本件免職処分は選定者らの政治的信条を理由とするものであることは明白である。

従つて、本件免職処分は前掲諸法条に違反し、取り消さるべきものである。

(五)  国家公務員法第九八条第三項違反

(1) 前記のとおり本件免職処分は、選定者らの正当な組合活動をもその理由とする点において前記法条に違反することは明白である。

(2) なお、本件免職処分は全電協を弾圧する目的でなされた点においても右法条に違反するものである。

昭和二四年九月全逓信労働組合は分裂し、全逓信従業員組合が結成されたが、全国的に組織は混乱していた。

かかる情勢の中で電通省関係労働組合の統一の目的をもつて、昭和二五年四月全電協が結成され、選定者らの属する横浜電気通信管理所労働組合は、その有力な参加組合であり、小島は、全電協の中央常任執行委員でもあつた。

ところが管理者側は全逓信従業員組合を育成するため、全逓信労働組合に対すると同様、新たに結成された全電協に対してあらゆる差別待遇を行つて来た。

すなわち、電通省の管理者側は全電協の結成大会を妨害し、その人事院登録に干渉し、同協議会側の大臣交渉を拒否し、遂には全電協に対する何らの交渉もなく、一方的に全電協の中央役員の過半数を同時に同理由で免職し、組合としての活動を圧殺し、遂にその機能を失わせたものであるが、本件免職処分も同協議会を弾圧する目的でなされたものである。

(3) 以上のように本件免職処分は国家公務員法第九八条第三項に違反する不当労働行為として取り消さるべきものである。

第八原告の被告人事院の判定に対する主張

一  別紙被告人事院の判定に認定された事実のうち、原告がのべた被告公社総裁の免職理由に対する反駁(第七の二)に抵触する事実はすべて争う。

二  被告人事院の判定中の事実認定および判断の誤り中特記すべきものは後記第九のとおりである。

第九原告の被告人事院の再審請求却下決定に対する主張

被告人事院の別紙判定については、審査規則第六二項第四号にいう再審事由である「審査の際提出されなかつた新たな且つ重大な証拠が発見されたとき」、同項第五号にいう再審事由である「判定に影響を及ぼすような事実について、判断の遺漏があつたとき」に当る事情があつたのであるから、被告人事院は選定者らの右判定に対する再審の請求を理由ありとすべきであつたのに、右請求を却下したのは違法である。

一  新たなかつ重大な証拠の発見

右判定には審査規則第六二項第四号に該当する再審事由が存する。

(一)  小島敏夫関係

(1) 選挙応援について

人事院の公平審理における証人松沢実は「小島は昭和二五年六月四日の参議院選挙に際し同年五月末頃横浜郵便局前で全国区山口寛治候補の選挙応援をしたが、同証人はその直前を通つてこれを見聞した」旨の証言をし、人事院は右証言に基き、小島の選挙応援の事実を認定した。

しかし、小島は再審請求において次のような新たな証拠を提出し、右の認定の誤りであることを明らかにした。

(イ) 公平審理における証人森秀男の証言により明白なように、山口寛治の選挙演説の場所は横浜電報局通用門の直前であるから、松沢証人のいう選挙応援の現場とは四〇米ないし五〇米の差があり、同証人が横浜郵便局正面入口より入つたと証言している以上、同証人は絶対に選挙応援の直前を通る筈がなのである。

そこで小島は公平審理に提出されなかつた右の現場写真を提出し、松沢証言の誤り、引いては被告人事院の判定の誤りを明らかにした。

しかるに被告人事院は右各証拠について何らの判断を下さないで再審請求を却下したのは違法である。

(ロ) 右選挙演説をした山口寛治と当日同人に随行して選挙応援を行つた渡辺誠一郎の両名は公平審理において尋問されなかつたので、小島は再審請求において右両名の口述書を提出した。

山口の口述書は、「昭和二五年五月下旬横浜電報局入口で選挙演説をした際応援してくれたのは森秀男と金貯局の渡辺君とかいう二人であつて、同人ら以外に応援の人はなかつた」こと、渡辺の口述書は「昭和二五年五月末横浜電報局入口で山口寛治の選挙応援をしたのは森秀男と自分以外にないこと」を明らかにしている。

なお、人事院が昭和三〇年三月渡辺を証人尋問(この尋問は選定者らに何らの通知もなく行われたた。)した際にも、同人は口述書どおりの証言をしている。

以上のとおり、被告人事院の判定中小島が選挙応援をしたとの事実認定が誤りであることを立証する新たな、かつ、重大な証拠が発見されたのに、人事院は、山口の口述書中「森秀男」とあるのを「木村秀男」と故意に誤読して証拠力なしとし、渡辺の口述書および証言は公平審理の証人森秀男の証言と若干異る故をもつて、何れも新たな、かつ、重大な証拠に当らないと判断し、再審請求を却下したのは違法である。

(2) 「アカハタ」の配布について

被告人事院は公平審理における証人大橋寛の証言に基いて「小島は昭和二四年九月一九日人事院規則一四―七が施行されたのちも「アカハタ」を配布していた。」との事実を認定している。

小島は次のような新たな証拠である大橋寛の昭和二七年一〇月二〇日附証言訂正書を提出し、右認定が誤りであることを明らかにした。

右証言訂正書は「アカハタを配布していたと証言したが、実は組合関係のニユーズ、新聞を配布したことであり、「アカハタ」ではなかつた。当時職場には「アカハタ」の読者はいなかつた。昭和二四年春から昭和二五年五月二九日までの間において小島と一緒に仕事をしたが、その間同人が「アカハタ」を読んでいたことがあつたが、その時期は覚えていない。当時の事情から考えて、小島が規則に違反して「アカハタ」を配布したことはないと思う。」と記載してある。

被告人事院は選定者らの不知の間に大橋寛を再度証人として尋問した上、選定者らの再審請求却下決定において、大橋は「アカハタ」配布の時期については記憶が薄いことを認めながら、判定における事実認定を維持したのである。

このように判定における小島の「アカハタ」配布の事実認定の基礎となつた証言について、その配布の時期について記憶が薄いと認定しながら、右の大橋の証言訂正書を新たな、かつ、重大な証拠と認めなかつたのは違法である。

(二)  清水豊の選挙応援関係

被告人事院は、その判定において、清水が昭和二五年六月三日午前八時三〇分前後神奈川県庁角において山口寛治の選挙応援をした事実を認定している。

この認定は公平審理における証人森秀男の「同人が同日他の共産党員一名と共に山口の選挙応援をした。」との証言と、同証人渥美金市の「同日森秀男、清水豊外見知らぬ男一名が山口候補者の名前を書いた立看板のところにおいてメガホンを口にあてていた。」との証言に基いている。

選定者らは、当日山口の選挙応援を現実に行つた渡辺誠一郎が公平審理では証人として尋問されなかつたので、同人の「同日朝横浜郵便局ポスト側で山口の選挙応援をしたのは、森秀男と渡辺誠一郎だけで、他にこれに参加したものはなかつた。」との口述書を提出し、前記認定の誤りであることを明白にした。

被告人事院は秘密裏に渡辺を証人として尋問し、同口述書は日を間違がえているものとして再審請求を却下したが、右口述書を新たな、かつ、重大な証拠とならないとしたことは違法である。

(三)  清水豊、下山重雄の候補者推薦ビラの貼布について

被告人事院は、その判定において「清水、下山が昭和二五年五月末参議院議員選挙全国区候補者山口寛治、同地方区候補者岡崎一夫を組合執行委員会において推薦した旨の組合ニユース特報が横浜電報局の組合掲示板に貼布されたことについて、その責任を有する。」と認定し、あわせて「清水、下山が右ビラの貼布を否定しておらず」と認定している。

選定者らは再審請求において清水、下山の各口述書および公平審理において尋問されなかつた吉田太平の口述書を提出した。

右吉田太平の口述書によれば、「右組合ニユースは誰が貼つたか判らず、官側から相当多くの人が君が貼つたのではないかと尋ねられており、清水、下山も同様尋ねられた際、「俺が貼つたのでないというのに」といつているのを直接聞いた。」ことを明らかにしている。

しかるに人事院は吉田太平を証人として尋問し、故意に同人の証言内容を曲解し、右口述書を新たな、かつ、重大な証拠として認められないとしているのは違法である。

(四)  小島、下山、村山の昭和二五年一一月一〇日、一一日に行われた争議行為における役割について

被告人事院は、その判定において、昭和二七年人事院指令一三―九一を引用して組合の前記日時における争議行為において、小島、下山および村山は主導的役割を果したと認定している。

しかし、右判定が引用する人事院指令一三―九一には、訴外戸室昌子、山田馨代および人見和男が前記争議行為について、その謀議および遂行の段階において主導的役割を演じ、また訴外黒宮和子、岡田静江がその遂行に積極的に協力したと認定しているが、小島らが右争議行為について主導的立場にあつたことないし右訴外人五名と協力し主導的立場にあつたことについては何らの事実も認定されていないのである。

従つて、選定者らは再審請求において昭和二七年人事院指令一三―九一を新たなかつ重大な証拠として引用したのである。

しかるに人事院はこれを認めなかつたのは違法である。

二  判定に影響を及ぼすべき事実に対する判断の遺漏

被告人事院の別紙判定には、その結論に影響を及ぼすような事実について判断の遺漏がある。

(一)  選定者全員に共通なもの

被告人事院は、その判定において当時の占領軍最高司令官の書簡、声明等を根拠として選定者らに公務の秩序をみだる危険性があることを認定しているが、昭和二七年四月二九日以降においては占領状態は終つたのであるから、かかる書簡、声明等を判断の基準とすることは許されない。当然日本国憲法によつて判断さるべきである。

被告人事院は、占領終了後の事態が当然異る判断を要することを看過したものであるから、明らかに判定に影響を及ぼす事実について判断を遺漏したものである。

(二)  清水、村山の選挙応援について

人事院は、その判定において「清水、村山は昭和二五年六月三日午前八時三〇分前後神奈川県庁角において参議院全国区候補山口寛治の選挙応援を行つた」と認定している。

しかし、清水の勤務先の横浜電報局の出勤簿および勤務時間報告書、村山の勤務先の横浜電気通信管理所電話機械課のそれらによれば、清水、村山の両名は、昭和二五年六月三日に完全勤務をし、村山にいたつては、同僚の出張不在のため、七時間の超過勤務を行つていることが管理者によつて記入され、承認されていることが明らかである。

なお、村山の勤務先から神奈川県庁角までは、市電で三〇分以上要する遠距離である。

従つて、清水、村山が前記認定の選挙応援をしたことのないことは、電通省の公文書によつて明白にされているところであつて、これらの文書が証拠として公平審理に提出されたのにかかわらず、被告人事院はこれを判断の資料にしなかつたのである。

このように真正に成立した公文書を何らの理由をつけずに排斥し、これと異る事実を認定したのは採証の法則を違反し、理由不備というべきであつて、結局右判定には結論に影響を及ぼすような事実について判断の遺漏があるものというべきである。

(三)  清水、下山の参議院議員立候補者推薦のビラの貼布について

被告人事院は、その判定において前記一の(三)掲記の参議院議院候補者推薦の組合ニユース特報が横浜電報局内組合掲示板に貼布されたことを認定し、このビラの貼布者が清水か下山か明らかではないが、両名共に責任を有するとし、両名共人事院規則一四―七第六項第一三号に違反したものとしている。

被告人事院は、右両名が責任を負担する根拠を(イ)右ビラの字が清水の字であること、(ロ)右両名共右ビラの貼布を否定していないこと、(ハ)清水が松沢実に右ビラの撤去を求められていい争つたこと、(ニ)清水が渥美金市の注意によりビラを撤去した後下山が渥美のところへ撤去理由を問いただしに来たことに求めているが、右(イ)、(ロ)認定の根拠とをる証拠は全くなく、残るところは(ハ)、(ニ)以外にないのである。

右(ハ)、(ニ)の如き行為をしたことに対し、かかるビラ貼布の青任を帰せしめるのは前掲人事院規則の条項を違法に拡張解釈したものというべきである。

かかる人事院規則の規定を違法に拡張解釈したことも判断の遺漏に外ならず、しかもかかる判断の誤りは判定に影響を及ぼすものである。

(四)  清水が参議院議員選挙の立候補者推薦記事を組合ニユースに掲載したことについて

被告人事院は、その判定において清水が組合の教宣部長として昭和二五年五月末組合執行部が参議院議員選挙の全国区候補山口寛治、地方区候補岡崎一夫を推薦することに決定したとの記事を組合機関紙に掲載したことを人事院規則一四―七第六項第一三号に該当するものとしている。

しかし、組合機関紙に執行部の決定を掲載するのは当然のことであつて、何ら政治的目的を有するものでないことは同規則第五項に照らし明らかであつて、従つてかかる行為は同規則第六項第一三号に該当しない。

また右記事は特定の候補者を支持したものではなく、「推薦」という表現で単に好ましいということだけを表明したものであつて、しかも組合員にのみ配布される組合機関紙に掲載されたのであるから、同規則第六項第一一号と対比して同項第一三号には該当しないと見るべきものである。

現に人事院は、同規則の運用方針において、右第一一号について「政治的目的を有する意見でも組合員だけの非公開の会合の場合等は本号に該当しない。」としている。まして、組合機関紙の如く何らの政治的目的を有しないものを組合員に配布することは同項第一三号に該当するものでないことは明白である。

しかるにこれを該当すると認定した人事院は判定に影響を及ぼすような事実について法令の解釈を誤つたものである。

被告人事院はこれを再審事由に含まれないとしているが、当然再審事由に含まれるものである。

三  再審請求却下の違法

被告人事院の判定には以上のとおりの再審事由が存するのに、かかる事由なしとして選定者らの再審請求を却下した同被告の決定は取り消さるべきものである。

第一〇被告公社総裁の原告の民事訴訟法第二五五条に基く主張に対する反駁

被告公社総裁は、本訴は行政事件訴訟特例法第五条に規定する出訴期間を徒過して提起された不適法な訴でであると確信し、昭和三一年五月二三日の準備手続期日において、同日附答弁書に基きその趣旨を陳述し、訴の却下を求め、かつ、以後の期日においては、この点の審理を先に進めた上、訴却下の申立が否定されたときに同被告としての本案の答弁をする趣旨を明らかにした。

しかるところ、裁判所より昭和三二年二月一九日の口頭弁論期日において訴却下の申立に対する中間的判断は行わないこと、選定者らに対する免職処分取消に関する点についても審理を進める趣旨が示されたので、同被告は始めて弁護士の訴訟代理人を選任して、本案に関する答弁をするに至つたものである。

以上の経過は、本件記録上明白であつて、被告公社総裁が準備手続において本案に関する主張、立証をしなかつたことは同被告の懈怠によるものではない。

その余のこの点に関する原告主張事実は否認する。

第一一被告人事院の原告の再審請求却下決定取消に関する主張に対する答弁

一  事実の認否

(イ)  選定者らが被告人事院の判定に対し、審査規則第六二項第四号に該当する事由ありとして同号にいう「事案の審査の際提出されなかつた新たな且つ重大な証拠」として、小島については山口寛治、渡辺誠一郎の各口述書および大橋寛の証言訂正書、清水、下山については渡辺誠一郎、吉田太平の各口述書、清水水、下山各本人の口述書を提出したこと、

(ロ)  被告人事院が判定において、小島、下山および村山について人事院指令第一三―九一を引用したこと、

(ハ)  選定者らが右判定に同規則第六二項第五号に該当する事由ありとして、同号にいう「判定に影響を及ぼすような事実について判断の遺漏がある」として原告主張の趣旨の理由を提出したことは認めるが、その余の原告の再審事由ありとする主張事実は争う。

二  再審事由の不存在

被告人事院が選定者らに対してした本件再審請求却下には何ら違法の点はない。

(一)  新たなかつ重大な証拠の発見について

審査規則第六二項第四号にいう「事案の審査の際提出されなかつた新たな且つ重大な証拠が発見されたとき」とは、再審の性質上、刑事訴訟法第四三五条第六号の規定と同様に人事院の判定後新たに発見された証拠であることを要するものと解すべきである。

従つて、事案の審査の段階において攻撃防禦方法として容易に提出できたにもかかわらず提出しなかつた証拠は含まれないし、また判定後新たに発見された証拠であつても、それが判定に影響を及ぼす程の重大な証拠でなければ右の再審事由に該当しないのである。

しかるに選定者らが右第四号の再審事由に該当するとして提出した前記各口述書等は、公平審理の段階において選定者らが書証又は証人申請等の方法により提出しようと思えば容易に提出できたにもかかわらず提出しなかつたものであるから、右にいう再審事由に該当しない。

しかも右口述書等はいずれも判定に影響を及ぼす程の重大な証拠ではない。

(二)  判断の遺漏について

審査規則第六二項第五号にいう「判定に影響を及ぼすような事実について、判断の遺漏のあつたとき」とは民事訴訟法第四二〇条第九号の「判決に影響を及ぼすべき重要なる事項に付判断を遺脱したとき」と同趣旨の規定であつて、当事者の主張があるのにかかわらず、これに対する判断を脱漏した場合をいうものであつて、事実の誤認や判断の誤りを指すものではない。

しかるに選定者らが右の再審事由に該当するものとして主張した事由はすべて人事院の判定に対し事実の誤認があるとか法令の解釈を誤つているとか又は一般法理に違背するとか証拠の採否を誤つているといいうことだけであつて、選定者らの主張自体からして第五号の再審事由に該当しないものであることが明白である。

(三)  以上のとおり、選定者らの再審請求事由はいずれも審査規則にいう再審事由に該当しないから、被告人事院がこれを却下したのは正当であつて、何ら違法のかどはない。

第一二立証〈省略〉

理由

第一被告らの本案前に抗弁について

一  選定者らに対する各処分と本訴の提起

村山邁は電通技官、その余の選定者らが電通事務官であつたところ、いずれも(イ)昭和二五年一一月一〇日電通省関東電気通信局長によつて免職の処分を受けたので、同月二九日から同年一二月九日までに被告人事院に審査の請求をしたところ、(ロ)被告人事院は昭和二七年一〇月六日右免職処分を承認する判定をし、その判定書写は、同月一二日選定者らに送達されたこと、選定者らは昭和二八年四月六日被告人事院に対し審査規則第六二項に基き再審の請求をしたが、(ハ)被告人事院は昭和三〇年一〇月二二日右再審請求却下の決定をし、その決定書写は同月三一日選定者らに送達されたことは三当事者間に争がなく、選定者らが電通省関東電気通信局長の争訟上の地位を承継したこと当事者間争ない被告公社総裁を被告として右(イ)の免職処分の、被告人事院を被告として右(ロ)の判定および(ハ)の再審請求却下決定の各取消の本訴を昭和三一年四月二七日提起したことは本件記録上明白である。

二  審査規則に基く再審請求と訴願

被告らは、審査規則第六二項に定める再審は、行政事件訴訟特例法第二条、第五条にいう訴願に該当しないから、(イ)、(ロ)の各処分に対する取消訴訟の出訴期間は、右(ロ)の判定が選定者らに告知された昭和二七年一〇月一二日より起算し、六ケ月で満了すると主張する。

行政事件訴訟特例法第二条にいう訴願とは、その名称のいかんにかかわらず、行政行為を違法又は不当とする者からその取消又は変更を求めるために一定の行政庁に一定の形式、手続に従つて、その再審査を請求するすべての行為をいうものと解されている。

ところで国家公務員法第九二条、審査規則第六二項ないし第六七項によれば、国家公務員の意に反する不利益処分および懲戒処分に関する審査手続における人事院の判定は、行政救済における最終的なものとされているため、その判定に誤りがないことを期するため民刑事訴訟法の再審事由に類似するような事由が存するときは、判定のあつた日から六ケ月以内に再審の請求をすることを認めているものと解される。

しかしながら、審査規則にいう再審と民刑事訴訟法とが根本的に違うところは、後者の再審は、終局判決の確定、すなわちこれらに対する通常の不服申立方法の杜絶したことを前提とするに対し、前者の再審は、人事院の判定に対する取消の訴の提起の有無とは無関係に許されることである。

従つて、審査規則に認められる再審は不服理由が限定されているとはいえ、機能的にはなお行政事件訴訟特例法が訴願の名において予定する行政上の不服申立と性質を異にするところがなく、しかも人事院は同規則第六五項により請求人に対する関係で請求を受理すべきか却下すべきかの決定をする拘束を受けるのであるから、同規則にいう再審も行政事件訴訟特例法にいう訴願から除外されないものと考える。

三  出訴期間の起算点

行政事件訴訟特例法第五条第四項にいう出訴期間の起算点は、第一段階の裁決(本件では、人事院の(ロ)の判定)のあつたことを知つた日から原処分(本件では選定者らに対する免職処分)に対する取消訴訟の出訴期間を起算するを原則とするものと解されており、その立法趣旨は、行政処分取消の訴を提起する前に少くとも一度は行政庁に再度の考案の機会を与えようとするにあるとされている。

ところが、人事院の行う審査の手続は一般の訴願とは違つた特種な性格を有するものである。

すなわち、人事院は、国家公務員に争議権等を認めない代償として、処分者側とは独立、別格の判定機関として公正な審理手続により国家公務員の地位を保障する機能を果すものとして設置された機関であり、かつ、人事院のする国家公務員の意に反する不利益処分等に対する救済の範囲とその内容は、裁判所のそれより広くかつ具体的なのである。

従つて、被処分者がかかる機関に最後まで頼つて原処分の不当を訴え、再審請求までしているのにかかわらず、原処分の確定を見ることを容認することは必しも妥当とは考えられないところである。

更に人事院の判定について、審査規則第六二項に定める再審事由が存すると考える者にとつては、公務員の地位の保障機関である人事院に判定を求めたが、その判定に重大な瑕疵があり、またはその判定後に新たな重大な証拠が発見され、結局実質的には十分再考して貰えなかつたと考えることも不合理とはいえないし、また再審事由が存すれば、第一段階の裁決前の審査手続に復するのであるから、判定に再審事由が存在すると主張する者が再審の請求をした場合には、右再審請求に対する人事院の決定があつてから、原処分および判定に対する出訴期間が進行すると解するのが行政事件訴訟特例法第五条の精神に合するものと考える。

四  本訴と出訴期間

従つて、選定者らが人事院の再審請求却下の決定書写の送達を受けた昭和三〇年一〇月三一日から六月以内に提起された選定者らに対する免職処分、人事院の判定の各取消を求める本訴は、出訴期間を徒過した違法はないというべきである。

第二被告公社総裁の免職理由に関する主張と民訴二五五条

被告公社総裁が本件準備手続において本案前の抗弁と原告の請求原因事実に対する簡単な認否のみしか陳述するところがなかつたことは本件記録に徴し明白である。

そして、本件準備手続がもつぱら被告人事院の再審請求却下決定取消の訴を中心として進められたことから見ると、本件準備手続の受命裁判官は、口頭弁論においては右取消の訴に関する審理を中心とする意見であつた推認される。

ところが本件の口頭弁論の経過によれば、裁判所は再審請求却下決定の取消以外の点についても審理を進める意見となり、そこで被告公社総裁の免職処分、人事院の判定の各取消の訴に対する本案に関する具体的な答弁を要することとなり、これに応じて被告らがこれに関する主張をするに至つた事情が窺われる。

以上の本訴の審理経過に鑑みれば、被告公社総裁が右に関する主張、立証を準備手続で提出しなかつたことについて、故意又は重大な過失はなかつたものと認めるのが相当である。

従つて民訴二五五条に基く原告の主張は採用できない。

第三選定者らの個人別免職理由について

以下被告公社総裁のいう選定者らの免職理由と被告人事院のいう選定者らの免職を承認した理由として述べられた選定者らの個人別の具体的行為について検討する。

なお、被告公社総裁主張の「選定者らの共同による組合運動に名をかる共産主義の宣伝等」の免職理由と被告人事院のいう清水の組合ニユースにおける候補者推薦の記事掲載の点については、項を改めて検討する。

一  小島敏夫について

小島が昭和二三年七月逓信事務官となり、横浜中央電話局に勤務し、昭和二四年六月電通省設置に伴い電通事務官として当初横浜電気通信管理所に、昭和二五年五月頃(被告公社総裁は、同月一日と主張し、小島は同月末か翌六月初めと主張し、被告人事院は別紙判定において五月二九日と認定している。)から横浜長者町電話局営業課に勤務していたことは小島と被告公社総裁との間に争なく、被告人事院もまた明らかに争わないところである。

(一)  山口寛治の選挙応援について

証人山口寛治の証言によれば、山口寛治は昭和二五年六月四日行われた参議院議員選挙の全国区に立候補したが、同年五月末頃の午前八時一〇分頃から同四〇分頃まで横浜郵便局通用門附近の道路上で選挙運動をしたことが認められる。

そして成立に争ない乙第五号証の四、同第六号証の一、二、証人吉沢健六の証言を綜合すれば、小島は同時刻頃右場所において山口寛治に同行して「山口候補にお願いします。」という呼かけをしていたことが認められる。

右認定に反する甲第四、五号証の各記載、証人山口寛治、森秀男、渡辺誠一郎、勝呂寿常、河井正一の各証言、原告本人小島敏夫の尋問の結果は採用しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の小島の行為は、国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七政治的行為第五項第一号、第六項第八号に違反する行為である。

(二)  「アカハタ」の配布について

成立に争ない乙第七号証の一、二によれば、小島は昭和二四年五月頃から「アカハタ」が発行停止になる相当前まで職場内において「アカハタ」を配布していたことが認められるが、右供述記載の「相当前まで」とは何時頃までをいうのか明確でなく、他に小島が昭和二四年九月一九日前記人事院規則の施行されたのちにおいても「アカハタ」を配布していたかどうかを確認できる証拠はない。

(三)  細胞主幹者と政党の役員

真正に成立したものと認める丙第五号証(神奈川県総務部地方課長の証明書)によれば、小島が昭和二五年七月五日日本共産党横浜電気通信管理所細胞の主幹者に就任したことが認められる。

国家公務員法第一〇二条第三項、人事院規則一四―七第六項第五号にいう政党の役員であるかどうかは、当該政党の規約又はその組織により定まるものと解されるが、本件においては、日本共産党の細胞の「主幹者」が同党の規約上又は組織上同党の役員とされていることを認めるに足りる証拠がない。

二  清水豊について

清水が昭和二一年八月逓信事務官に任命され、横浜電信局勤務となり、昭和二四年六月電通省設置に伴い、電通事務官として横浜電報局勤務となつたことは原告と被告公社総裁との間に争なく、被告人事院の明らかに争わざるところである。

(一)  山口、岡崎両候補の推薦ビラの掲示について

成立に争ない乙第六号証の一、二、証人渥美金市の証言により真正に成立したものと認める丙第一二号証の一、二、三と右証言によれば、(イ)昭和二五年五月二九日横浜電報局庁舎一階および三階の各組合掲示板に特報として「二五日当組合執行委員会において次の二氏を参議院候補者として推薦を決定した。全逓信労働組合委員長、全国区山口寛治、地方区自由法曹団弁護士岡崎一夫」というビラが掲示されたこと、(ロ)電通事務官松沢実は、右ビラは清水豊の筆跡と考え、同人に対し「電報局の組合はあくまでも違法のない組合で行きたい。そのためこういう宣伝ビラを貼つて貰つては困るから」といつて右ビラの撤去を求め、押し問答の末結局清水は右ビラの半分を折つて鋲でとめたこと、(ハ)当時横浜電報局の業務長であつた渥美金市は組合電報班役員であつた根津に右ビラの撤去を求めたところ、同人から清水豊、村山邁に連絡してこれをとるようにするとの話があつたので、そのままにしていたところ当日午前一〇時頃右ビラが半分に折つて貼つてあるのに気付き、清水に「けちな貼り方をするな。取るなら取れ」という話しをしたところ、同人は笑いながら取つたらいいんでしようという返答をしたことが認められ、右(イ)、(ロ)、(ハ)の諸事実と証人清水豊の証言によつて認められる同人の属する横浜電気通信管理所労働組合は昭和二五年六月四日行われた参議院議員選挙に際し前記特報記載の候補者を推薦することを決議したが、当時清水は横浜電報局の職場から選出された執行委員で教育宣伝部長であつたこと、組合掲示板における掲示は同部の担当するところであつたことを綜合すれば、右推薦ビラの掲示は清水の企図に基くものと認めるのが相当であつて、証人清水豊の証言中右認定に反する部分は採用しない。

以上の清水の行為は国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第五項第一号、第六項第一三号、第三項によつて禁止される政治的行為をしたことに該当する。

(二)  選挙応援について

成立に争ない乙第三号証の一、二と証人渥美金市の証言によれば、清水は昭和二五年六月三日午前八時半頃神奈川県庁前道路上においてその翌日行われる参議院議員選挙の候補者山口寛治、同岡崎一夫の氏名を記した二尺に四尺程の逆V字型の看板を立てメガホンを使用して両候補者のため選挙運動をしたことが認められる。

右認定に反する証人森秀男、清水豊の各証言は採用しがたい。

なお、被告らは、横浜電報局の出勤簿、勤務時間報告書の記載上、清水が同月三日に完全に勤務したことになつていることを明らかに争つていないが、証人綿貫福治(第二回)の証言によれば、かかる記載は必しも勤務の実状どおりに記載されるとも限らないことが窺われるので、右事実も前認定を覆すに足りるものとは認められない。

清水の右の行為は、国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第五項第一号、第六項第八号によつて禁止される政治的行為をしたことに該当する。

(三)  「アカハタ」の配布について

成立に争ない乙第五号証の三、証人下山重雄の証言によれば、清水は昭和二四年九月一九日(後掲人事院規則施行の日)以降昭和二五年初め頃まで何回か横浜電報局通信室において局員に日本共産党機関紙「アカハタ」を執務時間中配布したことが認められ、右認定に反する証人清水豊の証言は採用しがたい。

清水の右行為は、国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第六項第七号に禁止されている政治的行為をしたことに該当する。

(四)  原爆被害写真の掲示について

成立に争ない乙第三号証の一、二、証人渥美金市の証言によれば、清水は昭和二五年五月六日午前中当時横浜電報局業務長であつた渥美金市に原爆被害写真五、六枚を見せ、これを庁舎内組合掲示板に掲示することの許可を求めたが、渥美業務長は、右写真は陰惨で庁舎内に貼るのは不適当としてこれを拒否したこと、しかるに同日昼過ぎより翌日午後まで右写真のうち三枚程が右組合掲示板に掲示されてあつたことが認められる。以上の事実によれば、右写真の掲示は清水の企図に基くものと認めるのが相当であつて、この点に関する証人清水豊の証言は採用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして前掲証拠によれば横浜電報局庁舎内の組合掲示板にビラ等を貼布するときは、予め同局業務長の許可を受けることと定められていたことが認められるから、清水の以上の行為は、同局管理者側の庁舎管理に関する指示に背くものといわなければならない。

三  村山邁について

村山は昭和二四年五月逓信技官に任命され、横浜電気通信工事局に勤務し、同年六月電通省設置に伴い電通技官として横浜電気通信管理所に勤務していたことは原告と被告会社総裁との間に争がなく、また被告人事院の明らかに争わないところである。

(一)  選挙応援について

成立に争ない乙第四号証の一、二、証人菱刈重巳、雪文苗の各証言によれば、村山は昭和二五年六月三日午前八時二〇分頃神奈川県庁附近道路上でその翌日行われる参議院議員の選挙に立候補した山口寛治、岡崎一夫のためメガホンをもつて呼びかける等選挙運動をしたことが認められ、右認定に反する証人森秀男の証言は採用しがたい。

なお、この点について横浜電気通信管理所における出勤簿、勤務時間報告書の記載によれば、村山は昭和二五年六月三日は完全勤務した上、同僚出張不在のため七時間の過超勤務をしたものとなつていることは被告らの明らかに争わないところであるが、証人雪文苗の証言によれば村山は同日朝は職場にいなかつたことが認められるし、出勤簿等の記載は必ずしも勤務の実状どおりになされるものとも限らないことが窺われるから、同人の当日の出勤簿等の記載も前認定を覆すに足りる事情とは認められない。

村山の右行為は国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第五項第一号、第六項第八号によつて禁止される政治的行為をしたことに該当する。

(二)  「アカハタ」の配布について

被告公社総裁は、村山は昭和二四年初頭から同年八月まで国家公務員法による禁止を無視してその職場内において相当数の「アカハタ」を配布したというが、同年九月一九日施行された人事院規則一四―七により初めて国家公務員が政党機関紙を配布することを禁止されたのであるから被告公社総裁主張の期間内における「アカハタ」の配布を違法とすることはできない。

四  下山重雄について

下山は昭和二二年七月逓信事務官に任命され、横浜電信局に勤務し、昭和二四年六月電通省設置に伴い電通事務官として横浜電報局勤務となつたものであることは原告と被告公社総裁との間に争がなく、また被告人事院においても明らかに争わないところである。

(一)  山口、岡崎両候補の推薦ビラの掲示について

被告公社総裁は、下山が清水と共に前記二の(一)認定の山口、岡崎両候補推薦のビラを掲示したものと主張し、被告人事院は、下山が右ビラの掲示をしたか、又は少くともこのビラの貼布については下山も承知した上でのことであるから、下山は右ビラの貼布について責任を有するものとしている。

しかし、本件に現われた全証拠を検討しても、下山が右ビラを掲示したことないし他人に掲示させたことを肯認できる的確な証拠はない。

しかし、証人渥美金市、同下山重雄の証言によれば、下山はその頃横浜電報局業務長渥美金市に対し、同人が清水にビラを取除くことを指示したことに抗議し、大きな声で人事院規則などは無視してもかまわぬといつたことが認められるから、右事実によれば、下山は右ビラを貼布しておくことを主張したものというべきである。

下山のかかる行為は国家公務員に禁止される政治的行為には該当しないが、人事院規則を遵守しようとする上司に対し「人事院規則などは無視してもかまわぬ」などと放言することは、公務員として必要な適格性を欠くものと判断される根拠とされてもやむを得ないところである。

(二)  「アカハタ」の配布について

成立に争ない乙第五号証の三、証人下山重雄の証言によれば、下山は昭和二五年初め頃横浜電報局庁舎内で日本共産党機関紙「アカハタ」を配布したことが認められる。

下山の右の行為は、国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第六項第七号により禁止されている政治的行為をしたことに該当する。

(三)  超過勤務の拒否について

被告公社総裁は、下山が昭和二五年三月一三日全逓信従業員組合本部の指命を逸脱して超過勤務を指令された局員にこれを拒否させたと主張する。

証人河井正一、同下山重雄、同綿貫福治(第一回)、同渥美金市の各証言を綜合すれば、下山は当日横浜電報局員の超過勤務の指令を担当する係長、副係長(いずれも組合員)に組合執行委員会として、局員の定時退庁の方針をとつていることを告げ、これに協力を求め、かつ、同局通信室入口附近で同室員に定時退庁の方針を伝えたこと、係長、副係長も下山の申出を無下に断らずに下山と交渉して国際回線に絶対必要な四、五人程度を残すこととし、残余の下山の勧めに応じて超過勤務をしないで帰る六、七人に特に積極的に超過勤務をするよう指示せず、却て超過勤務の指命を取り消したこと、下山と右係長らとの間に何らの紛争もなかつたことから見ると、当日の事態は、いわば管理者側と組合側との妥協の結果と認めるのが相当であつて、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の下山の行為を特に公務の秩序を乱したものと認めることはできない。

第四被告公社総裁主張の選定者ら四名共通の免職理由について

附 被告人事院主張の清水が組合ニユースに立候補者推薦記事を掲載したことについて

一  選定者ら四名による(被告公社総裁主張)、または清水豊による(被告人事院主張)参議院議員選挙の立候補者推薦記事の組合ニユース掲載について

(一)  原本の存在とその成立に争ない丙第九号証の四によれば、横浜電気通信管理所労働組合教育宣伝部発行、責任者清水豊の名義で発行された組合ニユースNo.4(昭和二五年五月三〇日附)に「全国区山口寛治、地方区岡崎一夫の推薦決定」との表題、「二五日執行委員会の結論」との副題をつけて、組合の執行委員会が同月二五日翌六月四日行われる参議院議員の選挙に際し前記両候補者を推薦する結論を出した旨の記事が掲載されたことが認められる。

そして、清水がその頃右組合の教育宣伝部長であつたことは三当事者間争なく、証人清水豊の証言によれば、組合ニユースの発行は、教育宣伝部長である清水の担当するところであつたことが認められるから、右記事が組合ニユースに掲載されたことは同人の意図に基くものと認めるのが相当であつて、右認定に反する証人森秀男、同証人清水豊の証言は採用しがたい。

そして参議院議員の選挙に際し、特定の候補者の氏名を挙げてこれを推薦することに決定したとの文書を発行することは、同候補者を支持する目的のためなされたことは明白であるから、清水の右の行為は国家公務員法第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第五項第一号、第六項第一三号によつて禁止される政治的行為をしたことに該当する。

(二)  次に被告公社総裁は、清水以外の選定者らも右記事掲載について責任を有する旨主張し、その前提として選定者らが右組合を完全に掌握したいわゆる実力者であつて、右ニユースの発行もまた選定者ら四名の共同の企図に基くものと主張するが、これらの事実を肯認するに足りる的確な証拠がない。

なお、昭和二五年五月頃は、小島は組合の執行委員、書記長、下山は執行委員をしていたことは原告と被告公社総裁との間に争ないところであるから、特段の反対の事実の主張、立証のない本件では、小島、下山も前記執行委員会の決議に参与したものとは認められるが、この事実から直ちに右両名がその決議の発表の方法が前記組合ニユースNo.4の如き方法によることまでも企図したものと断定することには躊躇せざるを得ないところである。

すなわち、証人村山永喜の証言によれば、その頃の公務員の労働組合の選挙運動としては被推薦者の氏名を口から口へ伝えるという方法もあると考えられていたことが認められるので、前記推薦決議に参与したことから直ちに人事院規則に違反する方法による伝達をも企図したものと即断することができないからである。

村山邁については、前記推薦決議に参与したことを認めるに足りる証拠は何もない。

二  平和投票運動への参加呼かけについて

成立に争ない丙第九号証の二、三によれば、組合長高木光雄名義の昭和二五年五月一〇日附指示第一号において、また教育宣伝部長清水豊名義の同月一九日附横管教宣要請第一号において、組合は平和投票運動に参加するよう呼びかけたことが認められる。

右丙第九号証の二によれば、右呼かけは組合の執行部の決議によるものと認められるから、村山を除くその余の選定者らもこの決議に参与したものと認められる。

しかし、成立に争ない丙第二〇号証の一、二によれば、いわゆる平和投票運動は原子兵器の禁止、その目的実現のための原子兵器の国際管理等を目標とする運動と認められるから、この運動が特定の政党によつて推進されているからといつて、これに参加するよう呼びかけることが直ちに国家公務員法ないし人事院規則に違反するものまたは国家公務員に相応しくない行動とすることはできない。

三  前進座観劇の勧誘について

成立に争ない丙第九号証の五によれば、組合の教育宣伝部長清水豊発行名義の組合ニユースNo.6には、同年七月九日横浜に来る前進座の公演(演物は、ロミオとジユリエツトおよび河内山宗俊)を観ることをすすめる記事が掲載されたことが認められるから、かかる記事の掲載は清水の意図に基くものと認められるが、他の選定者らがこの記事の掲載に関係があつたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

しかし、かかる記事を掲載することが国家公務員法ないし人事院規則に違反するもの又は国家公務員にふさわしくない行為であると認めるに足りる証拠はない。

四  吉田内閣の政策に対する反対

成立に争ない丙第九号証の二によれば、組合長高木光雄名義による昭和二五月一〇日附指示第一号に「吾々は既に単独講和を進めた吉田内閣の軍事基地を求めんとする政策に反対し、日本及び世界の平和を守るため全国的に行われている平和投票に参加しなければならない。」との文章および「越年闘争、ベース改訂闘争と吾々は生活を維持するため闘つてきたが、一貫して吉田民自党内閣がいかに自主性のない政策を強行し、その結果吾々を圧迫して来たかは今さら論ずるまでもない程である。」との文章があることが認められる。

右丙第九号証の二によれば前記指示第一号は組合の執行委員会の決議による文書であることが認められるから、前説明のとおり当時執行委員であつた選定者ら(村山を除く。)も右文書を発行する決議に参与したものと認めるのが相当である。

被告公社総裁は、まず右文書は吉田内閣に反対した政治的文書であるという。

人事院規則一四―七第五項第四号にいう「特定の内閣を支持し又はこれに反対すること」との意味は、同項第五号にいう「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること」と対比して考えると、特定の内閣に対しそのとる政策のいかんにかかわらず、およそこれに反対しまたはこれを支持することを同規則にいう政治的行為としたものと認められる。従つて特定の内閣のとる特定の政策を支持し又はこれに反対することは同第四号にいう政治的目的に該当しないものと考えられる。蓋し特定の政策を主張し又はこれに反対する場合の殆んどすべては現実の問題としては、特定の内閣のとる政策に反対し又はこれを支持する場合に当ると考えられるから、かかる場合には「政治の方向に影響を与える意図で」という限定なしに同規則で定める政治的目的があるとされる結果となり、結局は同規則第五項第五号を別個に特に制限つきで認めた趣旨がなくなるからである。

そして、前記文書は、吉田内閣のとつたとする政策を攻撃しているのであるから、同規則第五項第四号にいう政治的目的をもつ文書とはいいがたい。

次に同項第五号の政治的目的に該当するかどうかを検討する。

同号にいう「政治の方向に影響を与える意図」とは憲法に定められた政治の基本原則を変更する意図をいうと解するのを相当と考える。そしてかような意図で右文書が発行されたことを肯認できる証拠はない。

五  地方税政策に対する反対

成立に争ない丙第九号証の八によれば、組合の教育宣伝部発行、責任者牛野一正名義で昭和二五年九月九日附教宣時報No.2が発行され、これに「払えぬ地方税に反撃」との表題を附して地方税に対する反対闘争が全国的に展開されている旨等の記事が掲載されているが、選定者らが右文書の発行に関係があつたことを認めるに足りる証拠はない。

六  管理者に対する誹謗等について

成立に争ない丙第九号証の二(前掲指示第一号)、同丙第九号証の五(前掲組合ニユースNo.6)には、被告公社総裁が管理者に対する誹謗等として主張した記事が掲載されたことが認められる。

右指示第一号によれば、管理者に対する信任投票は、組合の執行委員会の決議によるものであること、従つて前説明のとおり当時執行委員であつた選定者ら(ただし村山を除く。)が右決議に参与したものと認めるのが相当である。

更に右指示によれば、右信任投票の提唱は、組合員に対し管理者に対する不信を投票によつて示すことを期待している趣旨であることが明白であるから、かかる企図は、一般職の国家公務員が負つている上司の職務上の命令に対する忠実義務の心理的基礎をゆるがすものとして、国家公務員としては不穏当な企画というのが相当であろう。

証人高木光雄の証言によれば、右投票の結果は結局発表されなかつたことが認められるが、結果を発表しなかつたからといつて、右信任投票の実施が管理者に対する心理的な圧迫として不穏当なことであつたことに変りはない。

また右指示第一号によれば、管理者に対する誹謗の言辞として「悪事の数々を犯している管理者」なる文字もあることが認められる。かかる言辞は、証人高木光雄の証言によつて認められる当時の管理者の数名がその後横浜地方検察庁において起訴されたことを考慮して見てもあまり適当な言辞とも思われない。

しかし、管理者の一部に右のような失態のあつたことは、信任投票、管理者に対する誹謗に関する選定者ら(ただし、村山を除く。)についてその情状として考慮さるべきものであろう。

次に清水豊発行名義の組合ニユースNo.6には、横浜電報局業務長を目して「ロボツト」などと称する不穏当な言辞があつたことが認められる。

そして前認定のとおり右ニユースの発行は清水の意図に基くものと認めるのが相当である。しかし、清水以外の選定者らが右ニユース発行に関係があつたと認めるに足りる的確な証拠はない。

以上のとおり、村山を除く選定者らについて、公務員として穏当を欠く行為があつたことは、同人らの免職に際し参考に供せられても止むを得ない。

七  全電協に関する記事の掲載について

原本の存在とその成立に争ない丙第九号証の四、成立に争ない丙第九号証の五によれば、組合の教育宣伝部長清水豊の発行名義にかかる組合ニユースNo.4には全電協に関する記事として「全電協の性格が確認されて保土ケ谷電報局員の組合加入を見るに至つた」趣旨の記事が掲載され、同発行名義の組合ニユースNo.6には全電協本部の大臣交渉に関する記事、神奈川電通協議会結成に関する記事が掲載されたことが認められる。

しかし、原告本人小島敏夫尋問の結果によれば、組合は昭和二五年四月その大会の決議により全電協に加盟したことが認められるので、組合機関紙に前述の程度の上部団体に関する記事を掲載することが組合運動の正常な範囲を逸脱するものとは認められない。

被告公社総裁は全電協は日本共産党の影響下にあつたもので、全電協に関する記事を掲載し、その宣伝をすることは、結局日本共産党の宣伝をしたことに帰すると主張しているが、全電協の性格はともあれ、全電協の加盟組合が右程度の全電協に関する記事を掲載することを直ちに政治的なものと認めるわけにはいかないところである。

第五選定者らに対する免職処分の適否

一  公務員としての適格性

選定者らには、前認定のとおり、国家公務員法、人事院規則を違反する政治的行為があつたのである。

国家公務員法、人事院規則が一般職の国家公務員に特定の政治的行為を禁じたのは、憲法の要求するように公務員に政治的中立を守り、全体の奉仕者としての性格を維持させようとするにあるから、小島、清水、村山が人事院規則に違反して国会議員の選挙に際し特定の候補者のため前述のとおりの選挙運動をしたり、あるいは清水、下山が同規則に違反して特定の政党の機関紙を配布したことをもつて、公務員として必要な適格を欠くものと判断したことを違法、不当とすることはできない。

しかも、清水には、第三、二、(四)認定の庁舎の使用に関する管理者の指示に反した行為と第四、六認定の横浜電報局業務長に対し不穏当な言辞を用いた文書を発行した行為があり、下山には第三、四、(一)認定の管理者に対し公務員に政治的行為を禁ずる人事院規則など無視して、山口、岡崎両候補の推薦ビラを掲示しておくよう主張した行為があり、更に村山を除くその余の選定者らには公務員として穏当を欠く管理者に対する信任投票を企画し、かつ、上司に対する不適当な言辞を用いた文書を発行した行為があるのであるから、これらの附随的事情は、選定者らが公務員としての適格性を欠くと判断する一助とされても止むを得ないところである。

従つて、電通省関東電気通信局長が昭和二五年一一月一〇日国家公務員法第七八条第三号に基いて選定者らに対してした免職処分はその根拠を欠くものとすることはできない。

二  政治的信条による差別待遇、国家公務員法第九八条第三項違反の主張について

以上認定のとおり、選定者らについては、公務員としての適格性が欠けていると判断されても止むを得ない具体的事情があつたのであるから、本件免職処分は選定者らの右の具体的行為を理由とするものと認めるのが相当であつて、単に選定者らの信奉する政治的信条の故に又は選定者らの正当な組合活動ないし全電協のために活動したことの故に差別的になされたと認めるに足りる証拠はない。

三  以上のとおり、被告公社総裁に対し免職処分の取消を求める原告の本訴はすべて理由がない。

第六被告人事院の判定について

一  被告人事院が昭和二七年一〇月六日別紙のとおり選定者らの免職処分を承認する判定をしたことは当事者間に争がない。

二  すでに認定したとおり、選定者らについては、国家公務員法第七八条第三号にいう、公務員としての「適格性を欠く」と認められる具体的事情があるのである。

そして被告人事院の判定における選定者らの行為に関する事実認定と当裁判所のそれとは、当裁判所は人事院の認定した(イ)小島の昭和二四年九月一九日以降の「アカハタ」の配布、(ロ)下山の昭和二五年五月末参議院議員選挙における山口、岡崎両候補推薦ビラの掲示を認めず(ただし、(ロ)については第三、四、(一)の限度で認定した。)、また(ハ)人事院の認定しなかつた清水、下山の昭和二四年九月一九日以降の「アカハタ」の配布を積極に認めた点において異るけれども、右(イ)、(ロ)、(ハ)の諸点と当裁判所が附随的事情として認定した諸点を除いて考えて見ても、選定者らにさきに認定した政治的行為がある以上、被告人事院が選定者らについて国家公務員法第七八条第三号にいう公務員としての適格性を欠く事情があるとした判断が違法とは認められないところである。

従つて、原告の被告人事院の右判定の取消を求める訴は理由がない。

第七被告人事院の再審請求却下の決定について

人事院が国家公務員法第九二条第一、二項に基き行う判定に対しては、同条第三項、審査規則第六二項以下により、その判定のあつたときから六ケ月以内に民、刑事訴訟法の再審事由に類似する事由の存在する場合にかぎつて再審の請求をすることが認められている。

かような制度は、人事院の行う判定は、行政手続上最終的なものとされているためと、判定に至る審査手続において処分者側、被処分者側の双方に十分主張、立証を尽す機会が与えられているためにより、一旦判定があつた以上その効力を行政的にたやすく争わせないこととしてその安定を図ることとする反面、右判定に重大な瑕疵があるときに限り、判定の適正を図るため再審の請求をすることを認めたものと解される。

この再審の制度を認めた理由から見ると、審査規則第六二項の定める再審事由である「事案の審査の際提出されなかつた新たな且つ重大な証拠が発見されたとき」、「判定に影響を及ぼすような事実について判断の遺漏があつたとき」とは、いずれも判定の法的安定を害しても止むを得ないような、判定の結論に影響のある重大な瑕疵のある場合を列挙したものと解される。

また前者の再審事由については、その文言と審査手続において当事者に立証の機会が十分与えられていることから見ると、審査手続において当事者がその証拠の存在を知り、あるいは容易に知り得べき場合であつたのに、かかる証拠を提出しなかつた場合には、その証拠を提出して前者の再審事由とすることは許されないものと考える。

一、新たな、重大な証拠の発見の主張について

以上の観点から、まず原告主張の「審査の際提出されなかつた新たな且つ重大な証拠が発見された」とする主張を検討する。

(一)  小島敏夫関係

(1) 山口寛治の選挙応援について

(イ) 原告は再審請求において山口寛治の選挙応援現場写真を提出し、これによれば、審査手続における証人松沢実の証言が誤りであることが判明すると主張するが、本訴においては原告は右写真を提出しないので、原告の右主張事実を肯認することができない。

(ロ) 原告が再審請求の新たな証拠として山口寛治、渡辺誠一郎の各口述書(甲第四、五号証)を提出したことは当事者間に争がない。

しかし、原告としては、かかる証拠を審査の際容易に提出し得なかつたと認めるに足りる事情について主張、立証するところがなく、却つて、証人山口寛治、同渡辺誠一郎の各証言によれば、小島は昭和二四年五月頃より山口を個人的に知つており、渡辺も同じ組合の執行委員として選挙当時から知つていたことが認められるから、小島の責に帰すべからざる事情で右各供述書を提出し得なかつたものとは認められない。

また、前記供述書二通をもつてしても、小島の選挙応援に関する事実認定を覆すに足りる重大な証拠とは認められない。

(2) 「アカハタ」の配布について

被告人事院が公平審理の証人大橋寛の証言に基いて、小島が昭和二四年九月一九日以降も「アカハタ」を配布していたものと認定したことは別紙判定書により明白である。

原告は、再審請求に当り、新たな、重大な証拠として大橋寛の証言訂正書(甲第六号証)を提出したことは当事者間に争がないが、かかる事由は前説明のとおり、再審事由である新たな、かつ、重大な証拠に当らないことは明白である。

なお、成立に争ない乙第七号証の一、二(公平審理における証人大橋寛の証言速記録)によれば、同証人は小島が「アカハタ」を配布していたとはつきりいえるのは、同人が昭和二四年五月頃加入課に来てからであるが、配つたのは組合の執行部としてやつていたと思う。同人が「アカハタ」を配つていた時期を漠然といえば、「アカハタ」が発行停止(注、同紙の最初の発行停止は昭和二五年六月二六日、成立に争ない丙第一号証の四による。)になる相当前までと思う。」と供述しているのみであつて、この程度の二義的な漠然たる証言から積極的に「小島は昭和二五年五月二九日長者町電話局に転勤するまで「アカハタ」を配布していた。」と認定することについては疑問があるところではあるが、審査規則に定める再審事由には、かかる認定を攻撃する適切な事由は存しない。

(二)  清水豊の選挙応援の認定について

原告は、被告人事院の判定における「清水が昭和二五年六月三日山口寛治のため選挙応援をした。」との認定を攻撃し、渡辺誠一郎の供述書(甲第七号証)を前記再審事由である新たな重大な証拠に該当すると主張するが、清水が人事院の審査においてかかる証拠を容易に提出できなかつたと認めるに足りる事情については主張、立証もなく、却て証人渡辺誠一郎の証言によれば、清水はかねてから渡辺を組合関係で知悉しているものと認められるから、清水の責に帰すべからざる事由のため右供述書を公平審理に提出し得なかつたものとは認められない。

また成立に争ない甲第七号証も証人渡辺誠一郎の証言と対比し十分な信憑力があるものとは認められない。従つて、右供述書をもつて清水の選挙応援に関する事実を覆すに足りる重大な証拠とは認められない。

(三)  清水豊、下山重雄の参議院議員選挙の立候補者推薦ビラの掲示について

別紙人事院の判定書によれば、「清水、下山が首題のビラを貼布したことについて否定しておらず、むしろ貼布しておくことを主張した」との事実を認定していることが明白である。

原告がこの点に関する「新たな、且つ重大な証拠」として提出した吉田太平の供述書(成立に争ない甲第一〇号証)によれば、「清水、下山がビラを貼つたのはのは自分達でないと官側に答えた」ことが記載されている。

しかし、清水、下山がその責に帰し得ない事由で右供述書を公平審理に提出し得なかつたことを認めるに足りる事情については何の主張、立証もない上、右供述書は漠然と「官側」と表示して何人たるかを明らかにせず、従つて松沢実、渥美金市が清水に、原沢が下山にそれぞれビラの撤去を要求した際、清水、下山が右ビラの貼布を否定しなかつたという別紙判定書の認定と必しも牴触しないところから見ると、かかる証拠は前記再審事由にいう「新たな、かつ重大な証拠」に当らないものと認められる。

なお、清水、下山がその責に帰すべからざる事由で同人らの供述書(甲第九、八号証)を公平審理に提出し得なかつたことを認めるに足りる事情について何の主張、立証もない上、同人らが公平審理において右ビラの貼布を極力争つたことは別紙判定書の事実および争点に明白であるからこの点に関する清水、下山の各口述書は新たな、かつ、重大な証拠に当らないものというべきである。

(四)  小島、下山、村山の争議行為における役割について

別紙人事院の判定書によれば、「小島が昭和二五年一一月一〇日および一一日行われた横浜電気通信管理所労働組合の争議に際し主導的役割を果たしたこと、清水、村山、下山が終始右争議行為の中にあつて相互に緊密な連絡をとつたこと」を認定してあるが、その認定の根拠となつたのは、単に人事院指令一三―九一によるものではなく、被告人事院はその外に吉沢健六、太田正雄その他の証人の証言と右指令とを綜合して前記事実を認定していることは別紙判定書により明白である。

従つて、被告人事院は、右指令一三―九一のみで右の認定をしたわけではないから、原告が右指令のみによつては右事実を認定できないとし、右指令を新たな重大な証拠に当るとする主張の理由のないことは明白である。

二  判断の遺漏の主張について

審査規則第六二項第五号にいう「判定に影響を及ぼすような事実について判断の遺漏があつたとき」とは判定に影響を及ぼすような事実について当事者の主張があるのにかかわらず、これに対する判断を遺脱した場合を指すものと解される。

従つて原告主張の別紙判定に判断の遺漏があるとする事実摘示第八、二、(一)、(三)、(四)の各主張は、被告人事院の判定における判断の誤りないし事実の認定の誤りを主張するに過ぎないから、右の再審事由に当らないことは明白である。

次に前記第八、二、(二)の原告の主張する清水、村山が昭和二五年六月三日の出勤簿、勤務時間報告書において同日は完全勤務したものとされていること、この文書が公平審理において証拠として提出されたことは被告人事院において明らかに争わないところである。

しかし被告人事院はこれらの証拠を採用しなかつたことは別紙判定書において明白なところであつて、国家公務員法、人事院規則によるも、人事院の判定において証拠を排斥する理由を明らかにする必要もないのであるから、人事院の判定に判断の遺漏があつたとすることはできない。

三  以上のとおり、原告の被告人事院の再審請求却下決定の取消を求める主張はすべて理由がない。

第八結論

以上のとおり、原告の本訴請求はすべて理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 伊藤和男)

(選定者目録省略)

人事院指令十三―九十二

郵政大臣 佐藤栄作

審査請求者 高木光雄

同 小島敏夫

同 清水豊

同 下山重雄

同 村山邁

昭和二十五年第六十三号請求事案に関する判定

昭和二十五年十一月二十六日付、元電気通信省横浜電話局勤務、高木光雄、元横浜長者町電話局勤務、小島敏夫、元横浜電報局勤務、清水豊、同下山重雄及び元横浜電気通信管理所勤務、村山邁の審査請求に係る不利益処分について、人事院は、次のように判定する。

判  定

人事院は、電気通信省関東電気通信局長新堀正義が昭和二十五年十一月十日付をもつて行つた技術員高木光雄、電気通信事務官小島敏夫、同清水豊、同下山重雄及び電気通信技官村山邁に対する免職処分を承認する。

事実及び争点

請求者高木光雄は横浜電話局に、同小島敏夫は横浜長者町電話局に、同清水豊及び下山重雄は横浜電報局に、同村山邁は横浜電気通信管理所にそれぞれ勤務していたところ、昭和二十五年十一月十日付をもつて免職されたものであるが、その処分理由は次のとおりである。

1 請求者高木光雄、小島敏夫、清水豊及び村山邁はいずれも共産主義者であり、同下山重雄は共産主義の同調者である。

2 請求者らはいずれも在職中次のような活発な共産主義活動を行つた。

(1) 請求者高木光雄について

(イ) 全国電気通信協議会副会長及び横浜電気通信管理所労働組合組合長として組合運動に名をかりて共産主義の宣伝を行つた。

(ロ) 横浜電気通信管理所労働組合は昭和二十五年六月四日参議院議員(以下「参議院選挙」という)選挙に際し、山口寛治・岡崎一夫両候補者の推薦を決定した旨を同年九月三十日組合ニユースNo.4をもつて発表し、また山口寛治候補者を推薦した選挙葉書を横浜電気通信管理所労働組合名をもつて発送した。

(ハ) 昭和二十五年十一月六日横浜電気通信管理所長からの辞職勧告の際「自分は赤の系統であることは自認するがうんぬん」と発言した。

(ニ) 昭和二十五年十一月七日レツドバージ反対等に関する官との交渉を終り解散する際、組合員を扇動しあくまで闘争する意志を表明した。

(ホ) 昭和二十五年七月五日まで日本共産党電通神奈川細胞の責任者であつた。

(2) 請求者小島敏夫について

(イ) 全国電気通信協議会常任委員および横浜電気通信管理所労働組合書記長として組合運動に名をかり共産主義の宣伝を行つた。

(ロ) 昭和二十五年六月四日の参議院選挙に際し、昭和二十五年五月末ごろ横浜郵便局前で山口寛治候補者の選挙運動を行つた。

(ハ) 日本共産党横浜電気通信管理所細胞の責任者であつた。

(3) 請求者清水豊について

(イ) 日本共産党横浜電気通信管理所細胞の構成員であつた。

(ロ) 昭和二十五年六月四日の参議院選挙に際し、同年六月三日神奈川県庁附近で山口寛治・岡崎一夫両候補者の選挙運動を行つた。

(ハ) 昭和二十三年八月ごろから同二十五年四月ごろまで「アカハタ」配布責任者として横浜電報局内で職員に「アカハタ」を配布した。

(4) 請求者山下重雄について

(イ) 前示参議院選挙に際し、昭和二十五年五月二十九日横浜電報局内で山口寛治・岡崎一夫両候補者の選挙運動を行つた。

(ロ) 昭和二十五年三月十三日定時退庁闘争に関する全逓従業員組合本部指令を逸脱して超過勤務を命令された職員をしてこれを拒否させた。

(ハ) 昭和二十四年六月ごろから昭和二十五年四月ごろまで横浜電報局内で職員に「アカハタ」を配布し、購読料を徴収した。

(5) 請求者村山邁について

(イ) 日本共産党横浜電気通信管理所細胞の構成員である。

(ロ) 前示参議院選挙に際し、昭和二十五年六月三日神奈川県庁附近で山口寛治・岡崎一夫両候補者の選挙運動を行つた。

(ハ) 相当部数の「アカハタ」を配布し、かつ日本共産党の資金カンパを行つた。

3 横浜電気通信管理所労働組合は昭和二十五年十一月十日及び十一日職場放棄並びに集団欠勤を行つて国家公務員法第九十八条第五項に違反する争議行為をなしたが、これは請求者ら五名が参与し、同年十一月六日以降組合員を扇動して発生させるに至つたものである。

4 共産主義者およびその同調者が、公務上の機密を漏えいし、公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだす虞のあることは公知の事実であり、本件請求者五名についても例外でないのみならず、前述の諸行為から判断してなんら疑のないところであつて国家公務員法第七十八条第三号にいう適格性を欠き、かつ他の官職に転任させることができないものであるから免職処分に付したものである。

これに対して請求者は、本処分を不当として

次のとおり主張した。

1 本処分は、横浜電気通信管理所労働組合が全国電気通信協議会に参加しているために、その幹部である請求者らを処分した組合に対する差別待遇である。

2 本処分は、処分者側が自らの不正を陰ぺいするために行つた不当な処分である。

3 本処分の最大の理由となつたものは、請求者らが共産主義者又は同調者と見られたことにあるのは明らかであるが、単に共産主義者又はその同調者であることが処分の理由となりうる根拠はないし、基本的人権としての思想、信条、言論の自由は憲法によつて保障されているところであつて、公共の福祉その他の名の下にこれを制限することはできないものであつて、本処分は処分者が憲法違反をあえてしたものである。

まして高木請求者は、昭和二十五年七月日本共産党を脱党し、下山請求者は日本共産党に関係したことなく、共産主義者又はその同調者ではないのであるから、処分理由は全く存しない。

4 処分者があげた処分理由としての具体的事実は、処分後にねつ造したものであつて、処分時には握されていたものではない。

5 各請求者についてあげられた処分理由の具体的事実については次のとおりである。

(1) 請求者高木光雄については、横浜電気通信管理所労働組合組合長及び全国電気通信協議会副会長であつたことは事実であるが、その他の事実については全部否認する。

(2) 請求者小島敏夫については、横浜電気通信管理所労働組合長記長及び全国電気通信協議会常任委員であつたことは事実であるが、その他の事実については全部否認する。

(3) 請求者清水豊については、処分理由にあるような事実を行つたことはない。

(4) 請求者下山重雄については、昭和二十五年三月の全逓従業員組合本部指令による規正闘争に際して、組合役員であつた職責上、本部指令を組合員一般に伝えたにすぎず、これは正当な組合活動であつて、なんら処分理由とはならない。その他の事実については否認する。

(5) 請求者村山邁については、処分理由にあるような事実を行つたことはない。

6 昭和二十五年十一月十日及び十一日に横浜電気通信管理所において行われた職場離脱は、本件請求者ら五名の不当なかく首に対して憤激した組合員が、各自自発的に行つた行為であつて、請求者らが関与してこれを発生させたものではない。また、この行為は組合員各自の自発的行為であつて、偶発的事故というべき性質のもので争議行為ではない。

7 請求者ら五名はいずれも技能優秀であり、かつきわめて熱心に勤務していたもので、公務の運営を阻害したり、機密を漏えいしたことなく、また組合活動もきわめて穏健で、その勤務及び組合活動については多くの上司、同僚から賞讃を受けている。

以上によつて本件請求者ら五名に対する処分理由は全くないのみならず、公務の秩序をみだして処分されるべきは不正汚職を重ねた管理者側であつて、請求者らこそ公務の正常な運営に努力し、秩序のびん乱を防止してきた功労者である。

理由

1 請求者五名が共産主義者又はその同調者であるかどうかについて

(1) 請求者小島敏夫、清水豊及び村山邁は、昭和二十五年七月五日付の団体等規正令第六条に基く変更届においてそれぞれ日本共産党横浜電気通信管理所細胞に所属するものとして届けられているところから、上記請求者三名が日本共産党員であることが認められる。しかして日本共産党員は共産主義者であることは明らかであるので、請求者小島敏夫、清水豊及び村山邁は共産主義者であると認められる。

(2) 請求者高木光雄は、昭和二十四年十月十五日付団体等規正令に基く日本共産党電通神奈川細胞の結成届にその代表者となつており、その後前示昭和二十五年七月五日付の変更届において前示細胞から脱退した旨届けられているので、少なくとも昭和二十五年七月四日までは正式の日本共産党員として共産主義を信奉していたことは明らかであり、その脱退の理由は横浜電気通信管理所労働組合書記森秀証人の証言によつても単に日本共産党員であることが、組合長として組合員を指導する上において好ましくないというにすぎず、共産主義の信奉を放棄した事実は認められないし、また処分当時管理所庶務課長であつた太田正雄証人の「昭和二十五年十一月六日辞職勧告の際高木請求者は「自分は赤の系統であることは自認するがうんぬん」と発言した」という証言及び人事院の調査による横浜電気通信管理所営業長山本孝雄の「時期の記憶は明確でないが、高木請求者が証人に対して「どうせ今度のレツドパーヂでは自分もやられてしまうからうんぬん」と話した」という証言等を総合考慮すれば、請求者高木光雄は、前示細胞から脱退はしたが、その後においても共産主義を信奉してきたものと認められる。

(3) 請求者下山重雄は。後に認定するように日本共産党機関紙「アカハタ」の配布、昭和二十五年六月の参議院選挙及び昭和二十五年十一月十日並びに十一日の横浜電気通信管理所労働組合の争議の行為を通じて、日本共産党員である清水豊及びその他の本件請求者と同調して行動し、特に参議院選挙に際し、日本共産党候補者山口寛治及び同岡崎一夫の推薦ビラの掲示撤回を要求されたのに対し激しく反対して、人事院規則を無視しても掲示を続けるよう主張したこと等を総合すれば、請求者は、日常の行動を通じて日本共産党の主義、政策に同調する行為をなしてきたもので、その行為から日本共産党に同調していたものと認められる。したがつて請求者下山重雄もまた共産主義の同調者であると認定する。

2 請求者らの在職中の行動について

(1) 請求者高木光雄について

(イ) 請求者が関東電気通信協議会副会長をしていたことは争いのないところであるが、処分者が共産主義の宣伝をしたことの資料として提出した「関電協ニユース」又は「全国電通新聞」の記事内容について請求者が編集、検閲等にたずさわつた証拠もなく、また請求者提出の横浜電話局勤務、高橋徴三及び横浜電気通信管理所勤務、秋山昌平の口述書によつても請求者は関東電気通信協議会への出席はまれであつたことが認められるので、単に請求者が同協議会副会長であつたことをもつて同協議会発行のニユースの責任を負わせることはできない。したがつてそのニユースの内容については取り上げる必要はない。

(ロ) 昭和二十五年五月二十五日横浜電気通信管理所労働組合執行委員会で同年六月四日の参議院選挙に際し全国区日本共産党山口寛治、地方区同岡崎一夫両候補者を推薦することに決定したことは当事者間に争いのないところであり、また同年五月三十日付の横浜電気通信管理所労働組合の組合ニユースNo.四によつても明らかである。

しかして、請求者は組合長として組合活動を統轄しており、かつ熱心に組合活動に従事していたことは多数組合員の認めるところであるので、組合運動の最高責任者として同ニユースの発行及び配布についてはその発行責任者とともに責を有するものである。

(ハ) 前記参議院選挙に際して横浜電気通信管理所労働組合名のゴム印を押し、かたわらに同組合書記である森秀雄の名を記して前示山口寛治を推薦する葉書を発送したことは、当時の庶務課長太田正雄の証言及び前示森証人の証言によつて明らかであるが、森証人の証言によれば、この葉書は森証人個人として発送したものであるが、その際証人の身分を明らかにする意味において組合名を使用したものであつて請求者はこれに関知していないものと認められる。

(ニ) 後に認定するように横浜電気通信管理所労働組合の争議行為において主導的役割をなした。

(2) 請求者小島敏夫について

(イ) 請求者が全国電気通信協議会常任委員であつたことは争いのないところであるが、請求者が「全国電通新聞」又は「関電協ニユース」に関与していた証拠はないので同新聞を通じて共産主義の宣伝を行つた事実は認められない。

(ロ) 昭和二十五年六月四日の参議院選挙に際して、同年五月末ごろ同選挙候補者日本共産党山口寛治が横浜郵便局前で選挙運動を行つたことは同候補者の選挙応援に参加していた前示森秀雄証人の証言によつて明らかであるが、その際請求者が応援に参加していたかどうかについて、森証人は証人と山口候補者その他一名で他に応援者はなかつたと証言したが、選挙運動を行つた郵便局前は横浜電報局及び同郵便局職員の出勤途上にあたり、当時その場所を通つて通勤していた横浜電報局吉沢健六証人及び横浜電報局松沢実証人は小島請求者及び山口候補者、森証人並びに他の一名がいたと証言し、特に松沢証人は前示四名の直前を通つて出勤したので請求者が「山口寛治にお願いします」と呼びかけているのを聞いたと証言しており、また両証人とも組合役員としての請求者をよく知つており、その容ぼうを他と違えるということもなく、また請求者を除く他の三名について及びその時間が午前八時二十分ないし三十分ごろであつた点については森証人の証言と一致しているところから、請求者小島敏夫は参議院選挙に際して立候補者山口寛治の応援に参加していたものと認められる。

(ハ) 横浜電話局加入課大橋寛証人は請求者について「高等逓信講習所時代から同学年として熟知しているが、職務に対してはきわめて熱心であり研究であつた」と証言するとともに、請求者が昭和二十四年春ごろ加入課に勤務するようになつてから長者町電話局へ転勤するまで日本共産党機関紙「アカハタ」を配布していたと証言しており、請求者が長者町電話局に勤務するようになつたのは昭和二十五年五月二十九日であるから請求者小島敏夫は昭和二十四年九月十九日人事院規則十四―七が施行された以後においても「アカハタ」を配布していたことが認められる。

(ニ) 後に認定するように横浜電気通信管理所労働組合の争議行為において主導的役割をなした。

(3) 請求者清水豊について

(イ) 昭和二十五年六月四日の参議院選挙に際し、前記森証人は投票日前日証人と他の共産党員一名で神奈川県庁角で前示山口候補者の選挙運動を行つたと証言しているが、横浜電報局業務長渥美金市証人の証言によれば、同じく投票日前日神奈川県庁角で午前八時三十分前後請求者、森証人及び見知らぬ一名が山口候補者の名前を書いた立看板を立てて、請求者の声は聞えなかつたがメガホンに口にあてていたのを見たので登庁後周囲にいた職員に見るよう指示するとともに、横浜電気通信管理所庶務課長太田正雄に電話連絡したことが認められ、電話連絡を受けた太田庶務課長は若干時間経過後現場に行つたと証言しているので、両証人の証言を総合して請求者清水豊は山口候補者の選挙運動の応援を行つていたものと認められる。

(ロ) 昭和二十五年五月末前記選挙に関して、横浜電報局の組合掲示板に全国区山口寛治地方岡崎一夫両候補者を横浜電気通信管理所組合執行委員会で推薦した旨のビラが特報としてちよう布されていたことは渥美証人、横浜電報局松沢実証人、同原沢実証人その他の証言で明らかであるが、このビラをちよう布した者については、これを現認したものはいないが、松沢実証人の証言によれば、その字が清水請求者の字であつたので、証人は直接請求者のところへ行つて撤回するよう抗議し、撤回するか否かについて激しく争つた後、請求者は半分ビラを折つて内容を見えないようにしたものであるが、渥美証人の証言によれば、その後清水請求者はビラを撤回するよう注意してこれを撤回させたところ、請求者下山重雄が撤回理由をただしにやつてきて、「人事院規則などは無視してもよい」と発言したことが認められる。また原沢実証人の証言によつて証人が前示ビラを撤回するよう下山請求者に申し入れたところ反対にあい激しく争つたことが明らかである。しかして上記の各証言では請求者清水、下山がビラをちよう布したことについて否定しておらず、むしろちよう布しておくことを主張している点及び横浜電報局から横浜電気通信管理所労働組合執行委員として選出されていたのは請求者清水、下山の二名であつたことを総合すれば現にこのビラをちよう布したものが清水請求者であるか、下山請求者であるかは明らかでないが、両名のうちいずれかであり、かつこのビラをちよう布することについていては両名とも承知した上でのことであつたと認められるので、この事実に対しては両請求者ともに責任を有するものである。

(ハ) 請求者が日本共産党機関紙「アカハタ」を配布したことについては、横浜電報局職員大木清、同吉沢健六、同原沢実各証人の証言によつて清水請求者が下山請求者と交互に「アカハタ」を配布していたことが明らかであるが、その時期及び配布場所については、前記各証人の証言を総合すれば横浜電報局通信室及び同第一運用課において昭和二十三年から同二十四年九月ごろまでの間であつて人事院規則十四―七施行された以後においても配布していたかどうかは明確でない。なお「アカハタ」購読料を徴収したか否かについても各証人とも明確な記憶がないのでこれを認めることはできない。

(ニ) 清水請求者が、横浜電気通信管理所労働組合の教育宣伝部長として発行責任者となつていた「組合ニユース」に山口寛治、岡崎一夫の推薦決定の記事を掲載したことについては、前項高木請求者の(ロ)に認定したとおりである。

(4) 請求者下山重雄について

(イ) 請求者下山重雄が前示参議院選挙に際して選挙活動を行つたかどうかについては前項清水請求者の事実(ロ)のとおりである。

(ロ) 昭和二十五年三月二十三日横浜電報局において規正闘争と称する定時退庁闘争が行われたことは争いのない事実であるが、この定時退庁闘争は当時全逓従組本部において組合闘争の一方法として決定され、その指令が横浜電気通信管理所労働組合へも伝えられたものであつて、この指令を伝えたものが請求者下山であることもまた争いのないところである。しかして下山請求者は当時組合役員としてこの指令を組合員に伝える任務を帯びていたものであつて、この闘争方針を伝達したことに関してはなんら不当な点は見られないのであるが、当日業務の必要から超過勤務を命じられた職員に対してそれを拒否させたかどうかという点について横浜電報局河井正一証人の証言によれば、請求者は組合の指令として全員に伝えただけで個人的に話してあるくとか、強制したような点は見られず、また上司と規正闘争について論争したような事実も認められないので、この行為をもつて秩序をみだすものとは認め難い。

(ハ) 請求者下山重雄が日本共産党機関紙「アカハタ」を配布したかどうかについては前項清水請求者の(ハ)において認定したとおりである。

(ニ) 後に認定するように横浜電気通信管理所労働組合の争議行為に当つて主導的役割をなしたものである。

(5) 請求者村山邁について

(イ) 前示参議院選挙に際して、村山請求者が日本共産党候補者山口寛治及び同岡崎一夫の応援を行つたかどうかについては人事院の調査による横浜電気通信管理所勤務菱刈重己証人の証言によれば、昭和二十五年六月三日神奈川県庁角において午前八時三十分ごろ村山請求者が候補者名を書いたプラカードを持つて街頭宣伝をしていたのを見ており、このことは前示渥美証人が清水請求者が選挙運動を行つているのを見たときと日時場所ともに同じであつて、渥美証人の清水請求者、森組合書記外一名を見てもし他の一名が管理所の職員ではないかと思い直ちに太田庶務課長に電話連絡したとの証言及び太田証人の「渥美証人から電話連絡を受けたので県庁角まで行つてみたが既にだれも見当らなかつたので、市内において職員が選挙運動を行つていては困ると思い自動車を用いて市内をまわつて見た」との証言を総合して、村山請求者が昭和二十五年六月三日神奈川県庁角において日本共産党候補者のために応援を行つていたことが認められる。

次に太田証人は前示証言のとおり横浜市内を自動車で巡回したところ横浜市馬車道附近で村山請求者と森書記がメガホンを持つて歩いているのを見たと証言したが、同じくその証言から当時太田証人は村山請求者の顔を知つておらないことが認められ、また選挙運動を行つているところを見たのでもないのであるから、これをもつて村山請求者が選挙運動を行つていたとするのは証拠として不十分である。

(ロ) 村山請求者が日本共産党機関紙「アカハタ」を配布し、かつ日本共産党の資金カンパを行つた事実は、明確な証言、証拠もないので、これを認めることはできない。

3 横浜電気通信管理所労働組合が昭和二十五年十一月十日及び十一日職場放棄並びに集団的欠勤を行い、かつ、この行為が国家公務員法第九十八条第五項にいう争議行為であつたことは昭和二十七年人事院指令十三―九十一によつて認定されたとおりであるが、この間の事情および請求者らの行動を昭和二十七年人事院指令十三―九十一及び吉沢健六証人、太田正雄証人その他の証人の証言を総合して判断するに、この争議行為を発生させる端緒となつたものは本件請求者ら五名に昭和二十五年十一月六日依頼免職を勧告したことに対し、同組合は処分撤回を要求して依頼免職を勧告された日から執行委員会又は拡大執行委員会を開いて協議するとともに、当局と種々交渉を重ねていたが、十一月九日夜請求者ら五名を含む約三十名が十一月十日から無断欠勤及び職場放棄の実力行使を決議するに至つた。十一月十日午前八時ごろから前日の決議に参加した一部職員によつて出勤登庁者を組合事務室に誘導し、職場放棄をさせ、請求者ら五名に対し午前九時五十分ごろ免職処分の通告がなされるに際し、請求者ら五名を含む数十名が所長室に押しかけ数度の退去命令に服さず十一時ごろ所長が請求者ら五名に対して辞令書及び処分説明書を読み上げたが請求者らは辞令書を受領することを拒否して組合事務室に引き上げた。組合事務室に引き上げた請求者ら五名を含む職場離脱者は、その決議に従つて午前十一時二十分ごろから昼食中の電報局員、出勤予定の電話局員及び夜勤宿直者等を職場放棄させ、あるいは出勤阻止を行つた。このとき下山請求者は電報局員を組合事務室に誘導して職場放棄をさせたことが明らかである。このようにして十一月十日午前八時ごろ翌十一日午前九時ごろまでに多数の欠務者を出したものであつた。この間を通じて高木請求者及び小島請求者は終始主導的立場にあつたものでありこの争議行為の指導者であつたことは明らかである。また清水、村山、下山各請求者はいずれも終始争議行為の渦中あり、また共産主義者又はその同調者として相互に緊密な連携をとつていたものであつた。しかしながら免職処分は十一月十日午前九時四十分ないし十一時の間に通告されており、請求者らが辞令受領を拒否したとしても、この免職処分は有効に成立しているのであるから、請求者らの国家公務員としての身分は、おそくとも十一月十日午前十一時以後においては存しなかつたものと認められ、この事実をもつて本処分に対する審査請求権がないとする処分者の主張は認められない。

4 以上を総合して各請求者について公務の秩序をみだし又はみだす危険性のある行為を行つたかどうかを判断するに、

(1) 高木請求者の(ロ)の行為は日本共産党を支持して人事院規則十四―七第六項第十三号に該当し(ニ)の行為は公務の運営を阻害する行為に関与したものであり、

(2) 小島請求者の(ロ)の行為は日本共産党を支持して公職の選挙において日本共産党候補者のために投票するよう運動を行つたもので人事院規則十四―七第六項第八号に、(ハ)の行為は日本共産党中央機関紙を配布したもので人事院規則十四―七第六項第七号にそれぞれ該当し、(ニ)の行為は公務運営を阻害する行為に関与したものであり、

(3) 清水請求者の(イ)の行為は人事院規則十四―七第六項第八号に、(ロ)及び(ニ)の行為は同項第十三号にそれぞれ該当するものであり、また、(ハ)の行為は日本共産党員として、日本共産党の機関紙を配布したものであつて国家公務員法第百二条第一項の精神にもとるものであり、

(4) 下山請求者の(イ)の行為は人事院規則十四―七第六項第十三号に該当するものでありまた、(ハ)の行為は清水請求者の(ハ)の行為と同じく国家公務員法第百二条第一項の精神にもとる行為であり、

(5) 村山請求者の(イ)の行為は人事院規則十四―七第六項第八号に該当するものである。

しかして請求者らの以上の行為のうち、人事院規則十四―七において禁止又は制限される行為に該当するものは国家公務員法第百二条第一項に違反し、秩序をみだしたものであり、清水、下山請求者の(ハ)の行為は、請求者らが日本共産党員又はその同調者として、日本共産党に協力する意図をもつて行つたものと認められるのであつて、従来の人事院における本件と同類型の処分理由による免職処分の審査請求事案に対する判定の趣旨からして、前記行為は公務の秩序をみだす危険性のあるものであることが認められる。特に高木、小島、下山各請求者が処分後ではあるが公務の運営を阻害する行為に参加したことは、上記請求者の行為の危険性について判断するに当つて考慮されなければならない。

5 本処分は請求者らが単に日本共産党員又はその同調者であることをもつて処分したものではなく、以上認定したように各請求者の在職中の具体的事実について、それが国家公務員として適格性を欠くか否かを判断した結果処分が決定されたものであり、また秩序をみだす危険性があるとの判断は請求者らの過去の事実を基礎としているのであるから、請求者の主張するように思想、信条、政治的所属関係又は所属組合によつて差別されたものとは認められず、したがつて憲法その他の法律に違反した処分であるとする主張も、これを認め難い。

6 請求者らか技能優秀であり、かつ勤務に熱心であつたことは、高木請求者の上司であつた横浜電話局施設長保坂実証人、神奈川通信部勤務枝喜久証人、小島請求者の同僚であつた前示大橋寛証人及び村山請求者の同僚であつた藤沢電気通信管理所、橘孝治証人各証人の証言並びに請求提出の清水請求者の同僚であつた横浜電報局勤務松原整、下山請求者の同僚であつた横浜電報局勤務木崎俊夫の口述書その他の証言及び口述書によつて十分認めることはできるのであるが、国家公務員法第七十八条第三号の「その官職に必要な適格性」を欠くか否かについて判断するに当つては、特定の官職に対する技能等に先んじて、一定の官職を占める公務員が、その特殊な職務の遂行を通じて公務全体の正常な運営に寄与するうえに必要な一般的要素をまず考慮すべきであるから、本件についても国家公務員法第七十八条第三号によつて処分されるべき場合に該当するのである。

7 その他以上各項において特に摘示したもの以外の証拠及び資料は、各項に認定した内容を変更しうるものとは認められず、また請求者らが、主張するように、管理者側に種々の不正、汚職があるとされたこと及びこれらについて早くから請求者らの注目するところとなつていたことは、これらの事件が既に被疑事件として取り扱われていること及び戸室昌子証人の証言によつても明らかであるがこのような管理者側の問題と請求者らのと処分とを関係ずける証拠もなく、処分の理由となつたのは、理由第五項に示したとおりであるから、請求者らの本処分が、不当労働行為であり、不正の摘発に原因するものであるとする主張もまた認めることはできない。

以上認定したところを総合すれば、請求者らは、日本共産党員又はその同調者として、秩序をみだす危険性のある行為を行つてきたものであり、高木、小島、下山各請求者は、処分直後現に秩序をみだす行為を行つたものであるから、従来の人事院における本件と同類型の事案に対する判定基準からして、請求者らは前記行為と性質を同じくする行為を将来においても反覆する可能性を内包しているものであつて、公務の秩序をみだす危険性を有するものであることが認められる。

よつて請求者高木光雄、同小島敏夫、同清水豊、同下山重雄及び同村山邁に対する国家公務員法第七十八条第三号による免職処分は妥当なものであると認定する。

昭和二十七年十月六日

人事院総裁   浅井清 [印]

人事官    山下興家 [印]

人事官   入江誠一郎 [印]

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